学園設定(補完)

□3Z−その1
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腕を引かれて歩きながら土方は、歩いて行くにはだいぶ距離があるが銀八のアパートへ向かう気なのかと思っていた。

だが真っ直ぐ行くはずの道を曲がり、飲み屋などの軒が連なる通りに出た。この辺りは友達とはもちろん、銀八とだってあまり通ったことがない。

そこを歩き続けるうちに、銀八の言っていた“最後まで試してみる”の意味に気付いて背中を嫌な汗が流れた。

この先にあるのはホテル街だ。

土方の歩みが鈍ったことで銀八も土方が気付いたことに気付くが、強引に歩いて行く。

「……銀八っ……やだ……」

掴まれた腕を振り解こうとしながら土方がそう声を漏らした。

“銀八”にもこんな強引なことをされたことがないのに、相手は先ほど“好きになれない”と言われたばかりの男だ。

付き合うようになってまだ三ヶ月程度だったが、そういう関係になるのは早かった。

土方の色気にムラムラした銀八が我慢できずにアパートに誘い込んで肉体関係を結……んでくれればいいと土方は思っていたのに、ちっともそういう感じにならないので土方のほうからアパートに押しかけて襲ったのだ。

そういう年頃だったからなわけではなく、どちらかと言えば怖いと思っていた。

だが土方の長い片想いに気付いた銀八が“付き合う”という選択肢を選んでくれたのが、同情からではないと確かめたかった。

男の自分を抱けるなら銀八の気持ちも信じられたし、繋ぎとめておけるんじゃないかと思えたから。

泊まって行くという土方を溜め息混じりに諭そうとする銀八を、部活で鍛えた筋力でベッドに押し倒してやった。

土方が焦っているのに気付いていた銀八が小さく笑う。

「こんなんでも“先生”だからさー、在学中に生徒とそういう関係になるのはマズイと思うんだよね。卒業まであと半年じゃん。それまで我慢しようっていう俺の男心……」

「半年なんて……そんなのどうなるか分からないだろっ……それまでに……銀八が俺のこと嫌いになったら……俺にはなんも残らないのに……」

泣きそうになるのを隠すためぎゅっと抱き締めていたら、銀八の“男心の壁”はあっさり崩壊してくれた。

「…ああ、くそっ……知らねーからな、どうなってもっ」

カッコいい事を言ってみた分、子供の挑発(誘惑)に乗ってしまった自分が恥ずかしいらしい銀八に、土方は嬉しそうに笑った。

そしてつつがなくそういう関係に至り、週末だけ月に数回泊まるようになったものの、銀八からは迫ってこない。いつでも土方のほうから誘い、銀八は申し訳なさそうな顔をして触れた。

というのも、“初めて”の翌朝、自分から言い出したとはいえ色々と無理があった土方は起き上がることもできなくなってしまい、病院に連れていくなんてこともできずに銀八はオロオロとうろたえるだけだったからだ。

“抱かない”ことを含めて土方を大切にしてくれた“銀八”が、無理矢理腕を引いている。

記憶喪失と分かっていても“銀八”だからと完全に拒絶できないでいた土方だったが、全身に力を込めて抵抗した。

「銀八っ! いやだっ、こんなのっ」

声を荒げる土方に銀八は少し面倒臭そうな顔をして、逃げる腕を引き寄せながら耳元で囁いた。

「こんな場所で騒がれると通報されちゃうよ」

そう言われてすぐに土方から力が抜けた。辺りに人の姿はなかったが、端から見れば本当に通報されかねない姿だったし、そうなれば処罰も制裁も受けるのは銀八のほうだけだ。

単純なぐらいに素直な土方に銀八はほくそ笑んで、また騒がれると面倒なので近くの建物に入った。

抵抗はしなくなっても顔を反らしておそらく渋い顔をしているだろう土方に、

「どの部屋がいい?」

意地悪でそう言ってみると、見ようともせずに、

「……しらねー」

素っ気無く言い返された。その様子から、こういう所に来たことがないことと、“銀八”が本当に本気で大事にしていたことを知る。

相手が相手だし自分のアパートのほうが安心だったこともあろうだろうが、自分の部屋に、自分の生活空間にそんな相手を連れ込むなんて有り得なかった。

今の自分にはできないことを次から次へ許容する6年後の自分と、許容させた土方。

こんなところに連れ込むのも、最後まで試してみようとしているのも、二人への苛立ちだのせいだと分かっている。


適当に部屋を選んで掴んだままの腕を引っ張って向かうと、土方が着いては来ても躊躇っているのを感じたが気付かないフリをした。

“初めて”の土方に刺激が強くないよう質素な感じの部屋にしてみたつもりだったが、中に入ってから土方の足が止まった。

もういいやと銀八が手を離すと俯いたまま両手のひらをきつく結んでいる。

いつもと違う部屋、いつもと違う匂い、いつもと違う銀八。嫌悪感で身体が動かない。

銀八が手を伸ばしてくるのが分かって、土方は声を搾り出すように言った。

「…やっぱり無理だ……こんなの…できない……」

拒絶するその綺麗な心も、煩わしく感じる自分には“銀八”の気持ちは理解できないのかもしれない。

それでももう見逃してやることもできそうにないから、銀八は土方の顎を取ると上を向かせた。

「…試しても無理だったらこれが最後になるんだから、お前も楽しんでおけば?」

そう言って再度腕を掴んで乱暴気味にベッドに寝かせると、押さえ込むように深めのキスを繰り返したが、土方からの抵抗はなかった。

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