原作設定(補完)

□その14
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「あー、笑った笑った」

3人がひとしきり笑って落ち着いた頃、山崎が取り出したスプレー缶を銀時が受け取る。

ドクロマークの付いたスプレー缶。それは後から貼ったラベルのようで、剥がすと読めない字と猫の絵が描かれた本物の製品名が出てきた。

「…つまり、これを使った奴らも騙されたんだろうな」

「…そうだと思います」

「よかったな、そいつらが馬鹿で。これがホントに毒だったら、真選組ほぼ壊滅じゃね?」

それが事実でも、従業員に給料も払えないようなダメ社長の万事屋・坂田銀時に言われると、悔しさ倍増、虚しさ三倍だ。

あきらかにしょんぼりしている猫たちに、銀時は小さくため息をつく。

「それで?俺たちに何をさせようっての?」

「あ、はい。その薬の解毒剤を探して欲しいんです」

「あ?そんなもん、おたくらのほうが手に入れやすいんじゃねーの」

「それが……なにせほぼ壊滅の大失態ですので……」

「上にはお願いできねーってことね。んー……新八ぃ」

山崎が万事屋に頼みたいことを理解した銀時は、神楽と一緒に猫(真選組)で遊んでいる新八を呼ぶ。

「あのバカに連絡とってみてくれ」

「あのバカ……坂本さんですか?捕まるかなぁ」

“あのバカ”で通じるとは失礼この上ないが、新八は万事屋の顧客情報が記載された手帳を取り出すと、山崎に頼んで宇宙まで通じる電話を用意してもらった。

数回の経由でテレビ電話のモニターに映ったのは陸奥だ。

『なんじゃ、黒いモジャモジャんとこのガキじゃなかか』

「こんにちは、陸奥さん。坂本さんは……」

『あのバカならおらんぜよ、いつものことじゃき』

「あはは。でも陸奥さんに聞いたほうが早いんで、かまわないです」

さらに失礼なやりとりのあと、新八がこちらの事情を説明する。

その間、猫たちの前に座った銀時が、右手の人差し指をプラプラさせながら、

「土方く〜ん。おいで、おいで〜」

と呼びかけていた。完全に“懐かない猫を呼ぶ仕草”だったため、当然、土方は出てこない。

呼び声に反応してくれないと区別がつかないため、銀時は口を尖らして拗ねたあと、目標を変更した。

「ゴリさ〜ん」

すると一匹の茶色で不細工な顔の猫が出てきた。どうやら近藤らしい。

「良かったな〜、今度はゴリラにならなくて。そんじゃ、沖田く〜ん」

次に沖田を呼んでみたら真っ白の猫がばびゅんと出て来て、銀時の手にゴロゴロとじゃれ付く。沖田は猫になったことを楽しんでいる様子だ。

「猫似合うなぁ、沖田くん」

「ニャア」(訳:当然でさぁ)

寝転がった沖田(猫)の腹を撫でてやるとそこだけ黒くなっていて、とても沖田らしい(腹黒)模様になっていた。

なんとなく和やかな雰囲気の中、銀時はもう一度試してみるが、

「土方く〜ん」

やっぱり出てこない。どうしても猫の姿を銀時に見られなくないようだ。

そうこうしているうちに、新八から話を聞いた陸奥が手際良く調査結果を報告してくれた。

『解毒剤は存在しちょるがこの船には在庫がない。おまんらの星に取り扱ってる店もないき、超特急便(割高)で調達して送っても一週間はかかるぜよ』

それを聞いていた猫達は絶望的な顔をする。一週間も真選組不在を隠しておけるはずもない。

どんよりと暗い雲を頭上に乗せている猫達に、新八はさすがに可哀想になってきたが、陸奥がああ言うからには他に最速の手段はないだろう。

「それじゃあ、できるだけ早く……」

『ちょっと待て』

そう言って陸奥は他の船員から何か報告を受け、それを伝えてきた。

『そいつにはどうやら欠陥品があるらしいぜよ。“好きな人にぎゅーっと抱き締められると戻る”……ちゅう話じゃ』

そんなベタな情報に、伝えた陸奥も呆れているようで眉間にシワを寄せている。

「どんな製品ですか、それ」

『そもそもが“猫になって好きな相手に可愛がられよう”ちゅう変態グッズらしいからのう。粗悪品があっても自業自得ぜよ』

好きな相手に可愛がられようと変身しておきながら、抱き締められた途端元に戻ったりしたらフラレのが間違いないがっかりグッズだ。

それでも試す価値はあるかと新八が振り返る前に、猫達の前に座っていた銀時がゆらりと立ち上がる。

いつも死んだ魚のような目がきらめいていた。

「ひ〜じ〜か〜た〜く〜んんんん」

“ああ、副長が自分を好きかどうか確かめたいんだなぁ”

はっきりと明言されたわけではないが銀時と土方が付き合っているのを知っていた隊士たちは、銀時の考えていることが即座に理解できた。

あの土方が銀時相手に愛の言葉を伝えている姿など想像できなかったが、どうやら本当に言ってもらってないらしい。




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