原作設定(補完)

□その14
16ページ/16ページ

#140

作成:2015/10/19




早朝のかぶき町は静かだった。夜遅くまで営業しているこの町は、当然朝に行動する人が少ない。

その町をこの場に不釣合いな制服で足取り重く歩く姿が一つ。目に見えないがその足には、“7時間遅刻”という足枷が付いていた。

『ありえねーよな……いくら急な仕事が入ったとはいえ……それが朝までかかっちまったとはいえ……連絡もしねーで7時間遅刻とか……いくらあいつでも今度こそさすがに怒ってる……』

しかも待ち合わせたのは居酒屋。久し振りにうまい酒が呑みたいと言い出したのは自分で、それなのに店で待ちぼうけを食わせた。

『どのぐらい待ったんだろう……諦めて一人で家まで帰る間、どんな気持ちだったんだろう……』

そうして“一人で帰りついた場所”に、重い足枷を引いてようやくた辿り着いた。

万事屋銀ちゃんの看板を掲げる扉の前に立ち、土方十四郎はチャイムを押すための手を挙げられずにいる。

早く会って謝らなければならないのに、いつも笑っている顔しか見せない銀時が本気で怒っていたらと思うと怯んでしまうのだ。

“鬼の副長”と呼称され、もっと怖いモノを相手に戦っている土方のこんな姿は隊士たちには見せられない。

意を決してチャイムを押そうと集中したせいで、中から玄関に近づいてくる気配に気付かなかった。

鍵のかかってない扉が開き、目の前に銀時が立っていた。

身長が同じなのでは同じ位置にある目を見つめないわけにはいかず、不機嫌そうな顔を直視する羽目になる。

銀時の開口一番の言葉に、

「…おはようさん」

「おはよう…ございます」

土方は思わず敬語でそう答えてしまった。それにツッコミを入れることもなく、銀時は土方の横を通り抜ける。

「ゴミ捨ててくる」

手にはゴミ袋を持っていて、階段を下りていく足音を聞きながら土方は開いたままの扉から中に一歩進んだ。

あんな素っ気無い態度の銀時を見るのは付き合ってから初めてで、『やっぱり怒ってんだ』そう思うとどんどん気が沈んでいく。

だからゴミを捨てて戻ってくる銀時の足音が近づいても動けず、すぐ後ろで立ち止まった気配に戸惑いながら謝ろうとした。

「……き、きのうは……」

だが、言いかけた言葉は背後から抱きしめられて止まった。土方の肩にアゴを乗せているらしく、耳元で銀時の声が聞える。

「なんで上がんねーの?あ、すぐ戻んなきゃなんねー?隊服だし」

その声はいつもどおりで、土方の身体から少しだけ力が抜けた。

「や…非番だから…」

「あ、そ。現場から真っ直ぐ来たなら寝てねーだろ?俺もさ、待ってる間にちょっと掃除とかしてたら止まんなくなっちまってよ」

大きな口をあけて欠伸をする銀時。その掃除の成果がさきほど持っていたゴミ袋なのだろう。

ぐったりと自分に寄りかかってくる銀時に、土方は小さい声で問いかける。

「怒ってねーのか」

謝罪の気持ちと反比例して小さくなっている声に、見えないがしょんぼりした顔をしているんだろうと思うと銀時は笑った。

「あ?……ああ。遅刻の最長記録だから? 大丈夫、銀さんこう見えて気は長いほうだし、文句言って別れるって言われるぐらいならいくらでも待ちますよぉ」

そう言いながら、銀時は抱き締めていた手で後ろから土方のスカーフを外してやる。

もちろん親切心からではなく、昨晩肩透かしを食わされた暖かい身体が腕の中にあるわけで、ムラムラするのも仕方ないのではないだろうか。

「お互いお疲れだし、おとなしく寝とく?明るいのやなんだろ」

うっすら明るくなり始めた早朝の空に、万事屋の部屋ですべてを見られることになるなんて嫌に決まってる。

だけど仕事で会うのを我慢させられた暖かい腕に包まれて、頑に拒絶するほどウブでもない。

「…聞くなバカ」

口の悪い承諾の言葉に、銀時は単純なぐらい笑顔全開になった。




寝不足、お疲れのままさらに疲れるようなことをした二人は、いつのまにか熟睡してしまっていたようだ。

土方が目を開けながらくんくんと匂いを嗅いだ。

『なんかいい匂い』

隣には銀時が口を開けて寝ているし、土方は身支度を手早く整えると和室の襖を開ける。

「あ、おはようございます、土方さん」

「もう昼ネ、いつまで寝てるアルか」

そこには昼飯をテーブルに並べて食事中の新八と神楽が居た。時計を見ると12時を少し過ぎている。

そのまますーっと襖を閉めた土方は、布団で寝ている銀時の顔をぺちぺちと叩きながら蚊の鳴くような声で抗議した。

万事屋で会っているのを新八たちに目撃されたことをない土方は大慌てのようだが、常日頃土方とのノロケ話を聞かされている二人はちっとも気にしていない。

そしてそれを知っている銀時は、うろたえている土方を布団に引っ張り込んで抱き締めてやるのだった。



 おわり




前にも似たようなの書いたはずなんだけど……これは……書いてないよね?(笑)
補完のために今までの作品を見直しているんですが、もう、バカみたいな量で。
デートに遅れてしょんぼりする土方って可愛いよねぇ。
だから銀さん全然平気なのでした。


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ