原作設定(補完)

□その14
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#132

作成:2015/10/04




いつものように沖田に逃げられた土方が、顔をしかめながらかぶき町を歩いていると、ケーキ屋のガラスにべったりと張り付いている神楽と、それをなだめているの新八を見つけた。

「一番おっきいのが良いアル」

「ダメだよ」

「でも銀ちゃん、こんなの食ってみたいって言ってたアル!」

「無理だよ………予算的に」

「…ちっ……だからお前はダメガネなんだヨ」

「いや、ダメなのは僕じゃないから、銀さんだから」

悲しくなるようなやりとりを繰り広げている二人にたまらず声をかける。

「何してんだ?」

「あ、土方さん、こんにちは」

「暇そうアルな、税金泥棒」

ムスッとしている神楽に、そう言われるのも慣れている土方は気にせず聞いた。

「…ケーキ、買うのか?」

「ええ……まぁ……」

「今日は銀ちゃんの誕生日アル」

そう教えられた土方は一瞬思考が止まった。そんなの聞いてない。

土方から聞いたことがなかったのは確かだが、あいつのことだからさりげなくアピールしてくるだろうと思っていた。

なのに何も言ってこないで……と思ってから気付いた。そういえば10月の休みを聞かれて、土日は無理だと答えていたことを。

今日は土曜日だし、最初から諦めてしまったのかもしれない。

土方がしょんぼりしているように見えたのか、新八が、

「土方さんも来ませんか?」

そう聞いてきた。二人が付き合っているのを知っていて、誕生日を教えられていなかったらしい土方に気を使ったようだ。

それは嬉しいが、銀時にも言ったように今日は遅くまで仕事があって無理だろうなと、土方は小さく笑う。

「……行けるかどうかはわかんねーな。だから…」

懐から財布を取り出し諭吉を二人抜き取ると、

「でかいの買えよ」

そう言って新八に渡した。神楽がぱーっと顔を輝かせながらいつもの毒舌を吐く。

「マヨラぁぁっ!ダテに税金から給料貰ってないアルなっ!」

「神楽ちゃんっ。あの…いいんですか?」

新八のほうは神楽を嗜めてから、久し振りに手にした諭吉に、申し訳なさそうな顔で聞いてくる。

「あいつに言うなよ」

「はいっ」

そう言われて新八は笑って頷いた。

二人で一緒に居るのをあまり見たことがないし、町で偶然会ったときにも嬉しそうなのは銀時だけで土方は素っ気ない感じがしていたので、銀時のために何かしてくれるのを見れたのが嬉しかった。




万事屋で暇そうにジャンプを読み直しながら留守番をしていた銀時は、ドタドタドタッと外の階段を上る足音と、豪快に開いた玄関の扉に顔を上げる。

「ただいまヨっ、銀ちゃ〜んっ!!」

「おう、お帰り〜」

笑顔全開で駆け込んできた神楽は大きな箱を抱えており、それを銀時の目の前に慎重に置くとカパッと上蓋を開けて叫んだ。

「銀ちゃん、誕生日おめでとーアル!!」

中には直径30cm以上ありそうな、生クリームと苺をたっぷり盛られたケーキが入っている。

毎年恒例のことなのでケーキが出てくるのは分かっていたが、今年は予想外の豪華さで銀時も驚いた。

「おおっ、なんだ、すげーなっ。どうしたんだコレ」

「えっと…その、僕らだって頑張ればへそくりぐらいできるんですよ」

そんなことができるほど給料を払っていない情けない事実と、新八の目がちょっと泳いだのを見逃さなかった銀時は、

『誰かに出してもらったんだな。ま、いいか』

ケーキが豪快なったのは喜ばしいことなので、誰かは気にしないことにした。

早速つまみ食いしようとする銀時に、新八がさっと蓋をして取り上げてしまう。

「まだダメですよっ!これから姉さんとかお登勢さんたちも料理持ってきてくれるんですからっ!」

「ちょっとぐらいいーだろうが、減るもんじゃなし」

「減るもんですよっ!!」

もっともなことを断言する新八にぶーぶー文句を言う銀時だが、素直につまみ食いは諦めた。

ほどなくして料理を持ってきたお登勢たちとダークマターを持ってきたお妙が揃って、お誕生日会が催される。

こんな風にみんなでお祝いされるのは恥ずかしいけど嬉しいし楽しい。

それでもここに居ない者を思って切なくなっている銀時だったが、時計を見た新八が小声で呟いた言葉に、

「……やっぱり来れないかな」

「誰が?」

「ひ………いえっ、なんでもないですよっ」

顔がほころぶ。

『土方だったのか』

ここには居ないけれど、ちゃんと祝ってくれていた。




はしゃぎ疲れて眠る子どもたちと、酔っ払って寝込むダメな大人たちを万事屋に残し、銀時はそっと外へ出た。

真選組屯所を囲む塀に背中を預けていると、通り過ぎたパトカーが停車して後部座席から一人を降ろして走り去る。

降りた人物は煙草を取り出しふかしながら、ゆっくり銀時のところまで歩いてきた。

はっきりと顔が見えるまで近づいてきてから、銀時は視線を向けて笑顔で文句を言った。

「なんで来ねーんだよ、お前」

「……なんで来てんだ、てめー」

土方も笑って答える。

改めて礼を言うのは照れくさかったが、今日はすごく嬉しかったので銀時はちゃんと口にした。

「ケーキ、どうもな」

「……なんのことかわからねーな」

「いや、もう分かってるから。どういう風の吹き回し?」

「……ダメ社長の下でこき使われてケーキ一つ買うのに悩んでるガキ共が哀れでな」

「ダメって言うなぁぁあああ!」

憎たらしいことを言う土方に嬉しそうにツッコミを入れる銀時。

だが土方が懐から携帯を取り出したのを見て、忙しいのは分かっているし少しでも会えたことで満足すべきだと分かっていても、やっぱり寂しいと思ってしまう。

銀時が諦め気味に視線を落としたとき、身体が暖かくなってぎゅっと締め付けられていた。

土方がしっかりと銀時に抱き付いている。

「……土方?」

「ギリギリ間に合ったな」

どうやら携帯を見たのは戻る時間ではなく、今の時間を確認するためだったようだ。

深夜とはいえ誰に見つかるか分からない屯所の前での抱擁に、銀時はこれ以上だらしない顔を見せないように抱き締め返す。

「誕生日おめでとさん」

「…どーも…」

仕事仕事で会えない寂しさを、この瞬間ですべて帳消しにしてしまう土方も、帳消しにされてしまう単純な自分も、幸せなので許せてしまう銀時だった。




 おわり




ネタメモを見直してたらですね、
私は銀誕ネタを今までけっこうやっちゃってたのに気付きました。
いつまで続けられるか分からないから時節無視で書いてたんですよね。
まさか10月まで続くとは(笑)
これは昔書いてたネタの1つですが、あとはほとんどメモなしの書き下ろしになりそうです。
銀土書けて幸せだから頑張るけどね!(笑)


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