原作設定(補完)

□その14
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#131

作成:2015/10/02




文机の上の携帯が鳴り出し、着信の相手が“万事屋”だったので土方は小さく溜め息をつく。

今日は10月10日。

きっと銀時が「覚えてるよな、遅れんなよ、絶対来てくださいコノヤロー!」と言いたくて電話をしてきたんだろうと思ったが、

「はい」

『…土方さんですか?志村新八ですけど…』

めずらしいことにメガネだった。

「……どうした?」

『あの、それが、えっとですね…銀さんなんですが、実は先週から知り合いからの依頼で他の星へ行ってまして…今日中には帰って来れないみたいなんですよ』

最近見かけないと思っていたが地球に居なかったのか、と納得するも、土方は声に出ないように不機嫌になる。

「そんなこと聞いてなかったぞ」

ずっと留守にするのに連絡の1つもなかった上、あれほど念を押していた誕生日ドタキャンを人に言わせるなんて。

声に出したつもりはなかったのだが、そこは万事屋の気配り担当の新八なので察したらしく慌てて弁明した。

『それはっ、ほとんど拉致されるみたいに連れて行かれたので…僕らも後になって聞いたし、今日のことも銀さんから直接じゃなく他の人から連絡があったんですよ』

このまま新八に気を使わせるのも悪いと思ったので、

「…分かった。戻ったら連絡してくれ」

そう言って電話を切った。

携帯を机に置くと、そのまま仰向けに寝転ぶ。

今日は銀時におねだりされて午後から休みを取っていたのに、やることもやる気もなくなってしまった。




受話器を置くと新八は深い安堵の溜め息をついた。

「はぁぁぁぁ、ドキドキした。もう、ちゃんと自分で謝ったらいいじゃないですか」

「うるせー、文句言うんじゃありませんよ」

デスクにうつ伏せの体勢で文句を言ったのは、細い腕、きゃしゃな身体、そして高い声。

「こんな姿、見せられるかっての」

口を尖らせてふて腐れていたのは“銀子”だった。

「……いつ戻るんですかソレ」

「知るかぁぁああ!!あんの、クソモジャモジャヤローがぁぁ!!今度ツラ出しやがったらぶっ殺してやる!!」

事の起こりは1週間前。ふらっと姿を見せた坂本辰馬と飲んだのが悪かった。

飲んでいるうちにどうやら仕事に忙しくてツレナイ恋人の愚痴を言ってしまったようで、翌朝、朝日とゴミに囲まれて目を覚ますと一枚の紙を握ってこんな姿になっていたのだ。

“金時くんへ 恋人を振り向かせるためのフェロモンたっぷりの薬を酒に盛っておきました。これでおまんも幸せになるぜよ”

「って、どんなフェロモンだ、これぇぇえええ!!」

思い出し激怒で震える銀子に、新八は“類友”という言葉を思い出しながら困った顔をする。

「坂本さんの薬ならすぐ切れると思ったんですけどねー」

「もう1週間だよコレ、いつになったら切れんのコレ、どうやったら戻れんのコレェェ!!」

「陸奥さんに戻る方法を探してもらってますから、もうすぐですよ」

気休めにそう言ってみるが、銀子はがっくりとうな垂れる。

「……せっかく土方が休みとってくれてたのによぉ……」

仕事でいつも忙しい土方の都合に合わせて銀時が我慢しているのを見ているだけに、落ち込んでいる姿を見るのは新八としても忍びない。

…のだが、

「じゃあ、気晴らしに仕事でもしてきたらどうですか?」

そう言って銀子の目の前に紙の束をドサリと置いた。

“スマイル秋の収穫祭!たわわに実った果実を収穫しに来てね(ハート)”と印刷されている。

「……なんですかコレ」

「姉上に依頼されたんです。かぶき町で配ってきてください」

「なんで俺ぇ!?お前らが行けよっ」

「スナックのチラシを僕ら(未成年)が配るわけにいかないでしょう。ある意味、その姿のほうが配りやすいかもしれませんよ」

確かにごつい男が配るより、可愛い女の子が配ったほうが効果があるかもしれないが。

だが、この姿を見られたくなくて1週間ずっと万事屋に篭もっていたのに外に出るわけには……と渋い顔をする銀子に、そのせいで1週間まったく働いていない雇い主に我慢の限界だった新八が、

「つべこべ言ってねーでさっさと配ってこいやぁぁ!!」

そう半ギレで怒鳴ると、銀子を外へ放り出したのだった。




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