原作設定(補完)

□その13
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数日後、土方は町中を私服姿で少し緊張しながら歩いていた。

きょろきょろと辺りを見回しながら、目的の人物を探す。

あれから会うのは初めてだったし、こんな気持ちのまま普通に接することができるのかと心配したが、前方からプラプラやる気なさそうに歩いている銀時を見つけ目が会ったとき、心配は杞憂であることを知った。

『なるほど、俺はこんなツラしてるんだな』

銀時は土方を見るなり眉間にシワを寄せ、不機嫌を隠そうともしない顔をした。たぶん先日の嫌な出来事を思い出しているのだろう。

“副長が不機嫌だから旦那も不機嫌になるんだと思いますよ”

『リラックスして普通に……』

深呼吸してから自分から銀時に近づいて行く。

「…よう…」

「不良警官が何の用ですかぁ」

こう言われて言い返してしまうからいつも喧嘩になるのだ。銀時のもふもふをチラ見して気を落ち着かせる。

「…この間は…悪かった……お詫びに…なんでも奢る…」

その言葉に、銀時はきょとんとしてからまた眉間にシワを寄せる。今度は嫌がっているというより怪しんでる顔だ。

「な、何企んでるんですか」

「ち、違っ……侘びだって言ってんだろ……」

ある意味企んでいるので内心ドキッとしたのだが、照れくさそうな顔をしたことで銀時も警戒が取れたらしい。

ポリポリと頭を掻いてから言った。

「そこまで言うなら奢られてやらねーでもねーよ」

「ん。何がいいんだ?団子か?パフェか?」

第一ステップは、”茶屋かファミレスで二人で少しでも長く話をする”こと、だった。

そしてジワジワと仲良くなっていく作戦で、この男相手にそれができるか不安に思っていたら、銀時から思わぬ提案がされた。

「あー、だったらもうこんな時間だし、飲みにでも行かねーか?」

「あ?」

「神楽がいねーから晩飯がてら一杯やろうかと思ってたんだよ」

銀時を探すのに集中しすぎて気が付かなかったが、空はもう夕方の色に変わっていた。

土方は思わず動揺してしまう。

銀時と二人で飲みに行く、は第三ステップとして用意していたもので、いきなりそこへ飛んでしまうとは思っていなかったのだ。

ちなみに第二ステップは、偶然会ったふりでできるだけ顔を合わせて話をする、だった。

「あ、都合悪ぃか?」

私服を着ているからの申し出だったらしく、返事をしない土方に銀時がそう言うので慌てて首を振る。

「いや、大丈夫だ。…何でも、いいぞ…」

「んじゃ、決まり」

そう言って笑った銀時。

案外あっさりと上手くいってしまった今回の作戦に、銀時が思っていたよりも自分を警戒していないことを知った。

本当に気の許せない相手にだったら、こんな隙だらけ顔をするはずがないと思っていたのだ。

銀時としては、甘味を弁償してもらうよりは飲んで食ってのほうが得だと思っただけなのかもしれないが、さきほどとは一転して機嫌良く歩き出す銀時の背中を、土方は少し後ろめたい気持ちで見つめた。

だが、それはそれ、これはこれとして作戦を実行しなければならない。

ここで失敗してしまえばこの作戦を続けることができなくなってしまうのだから、土方にも気合が入る。

とは言っても、そう難しいことではなかった。

“旦那は奢りといわれれば遠慮なく飲むと思うんで……”

沖田の言ったように、銀時は土方が勧めるままに酒を飲み続けた。

張り合って飲まないように気をつけながら、土方はじっくりとその時を待つ。

そして1時間を過ぎた頃、

「もう飲めねぇぇ……ふふふふ」

そう言って銀時は、カウンターのテーブルに腕を枕にして眠り込んでしまった。

「……万事屋?……」

声をかけるが起きない。

“酔ってつぶれちまえば触り放題でさぁ”

土方はそっと銀時の頭に向かって手を伸ばす。その前にチラリと辺りを見回したが、隅っこの席に座ったので誰もこちらを気にしている様子はない。

銀色の髪に手のひらを乗せると、ふわりとした懐かしい感触が伝わってくる。

撫でてやるともふもふっとした良い触り心地に、土方の胸は熱くなった。

『もふもふぅぅぅぅ!!』

まだ修行中だった頃に見つけた猫はやたら土方に懐き、猫好きだったわけでもない土方をメロメロにさせた。

道場の片隅で隠れて飼っていて、暇さえあればやってきてそのもふもふした毛並みを撫でてやっていた。

その猫が病気で死んで以来、同じ毛並みを探しては撫で回してきたけれど、こんなにもそっくりだったモノはない。

酒も入っているせいで泣きそうになるのをグッと堪えて、土方はもふもふを堪能したのだった。




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