原作設定(補完)

□その13
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数日後の真選組・局長室。

近藤を前に、沖田と山崎が神妙な顔をしている。

話題は、

「あの日からどうも土方さんの様子がおかしいんでさぁ」

だった。

それに同意できるぐらいの心当たりがあるのか、近藤も腕組みしたまま唸り声を上げる。

「取り逃がしたことを気にしてんのかな?」

「あの程度のヤツじゃ、そこまで気にせんでしょう。捕まえてぼこぼこにしてやると逆に燃えるはずですぜぃ」

「じゃあ、なんだろう」

首を捻る近藤に、日頃土方の近くにいることが多い山崎が自信なさそうに言った。

「実は、その……あの日以来、縁側に座ってしょんぼりしながら『モフモフ…』と呟いているのをよく見かけるんです」

「モフモフ?」

「後で他の隊士に聞いたんですが、志士に逃げられたとき現場に万事屋の旦那が居たそうなんです。いつものように言い合いになっていたらしいんですが、旦那をじっと見つめてたとか……“モフモフ”って旦那のことじゃないんですかね?」

土方が銀時のことを思い浮かべながらしょんぼりしている図、というのは日頃の犬猿の仲っぷりを見ている限りでは想像しにくい。

ここで第三者だけで相談していても埒が明かないと思ったのか、

「……分かった。俺が直接聞いてみよう」

近藤が立ち上がった。




副長室へ行った近藤は、土方と向かい合わせで座り咳払いを1つしてから話を切り出した。

「お前がずっと調子悪そうだって聞いてなぁ」

「……んなこたねーよ……」

「んー。何か悩み事なら俺に話してみろ」

「だから、ねーって」

「……その……1つ聞きてーんだけどな……俺の記憶に間違いがなけりゃ……」

どうやら近藤には何か心当たりがあるらしい。

近藤を前にしても気合が入っていないように見える土方に、ポツリと言い出す。

「“モフモフ”って、お前が昔内緒で飼ってたネコの名前だよな?」

その話に、廊下で副長室に聞き耳を立てていた沖田と山崎が「???」という顔をする。

土方は近藤にそう言い出してもらったことで、心に閊えていたものが弾けたようだ。

くしゃりと顔を歪ませると、

「あ、あいつ……あのクサレ天パーの頭……モフモフに触り心地がそっくりだったんだぁぁああ!!」

そう叫んでガバッと畳に上半身をひれ伏した。

廊下でずっこける沖田と山崎。

「ね……猫……」

「旦那のことじゃなかったんかぃ」

やっぱりという顔で近藤が土方を慰めようとすると、再びガバッと顔を上げた土方が閃いたという顔をしている。

「もしかしてっ!あいつモフモフの生まれ変わりなんじゃ……だったら俺のこと覚えてるかも……」

「いや、万事屋のほうが年上だから」

「じゃあ、あいつ殺していいか?邪魔な身体は捨てて頭だけ持ち帰ってくれば触り放題じゃねーか?」

「いや、身体ごと生かしておかないとアレはすぐ枯れるから」

「ちっ。ホルマリンに漬ければ長持ちするかな……って、びしょびしょでモフれねーだろっ!!」

一人ツッコミまで披露する土方に、ここ数日、ずっとそんなことを考えていたのだろうかと近藤も不安になる。

「だったら、夜な夜な呼び出して気絶させてからモフるしかねーか……」

「いや、いつか通報されて通り魔として逮捕されるからな」

どんどん犯罪的になっていく土方に、

『……壊れてるなぁ……』

近藤は困った顔をして、もう1つ気になったことを聞いてみる。

いくら猫のことを思い出したからとはいえ、ずっと悩んでいるのは銀時に対し他に思い入れがあるんじゃないかと思ったのだ。

「あ〜……そこまで万事屋のことを考えちまうってことは……もしかして、万事屋のこと好きになったのか?」

「誰があんな万年金欠、いい加減でだらしねーマダオなんかっ」

そう吐き捨てた土方は、付き合いの長い近藤でも見たことがないぐらい嫌そうな顔だった。

日々蓄積された不満をさらに付け加える。

「だいたいあいつは顔をみるたびに不機嫌そうなツラするじゃねーか、顔も見たくねーのはこっちだっつーのっ!」

「それはですね…」

二人が真面目な話から反れていったので、廊下に居た沖田と山崎がいつの間にか中に入り込んでいた。

「旦那と副長はよく似てるからですよ」

山崎の言い分に、土方は怒りもせずにちょっと眉を寄せるだけに留めた。

それについては数々心当たりがあり、自覚しているらしい。

「副長が不機嫌だから旦那も不機嫌になるんだと思いますよ。リラックスして普通に接してみたら仲良くなれるんじゃないですかね」

「……たとえ仲良くなったとしても、頭モフモフすんのは不自然だろうが」

確かにいい年をした男同士だと、頭を触ったり撫でたりする姿は不気味だ。

それに“おまえの髪が好きなんだ。触っていいか?”なんてことは絶対に言いたくない。

「それについては名案がありやす」

悩む三人に、沖田がニヤリと笑って言った。おもしろいことになりそうだと嬉しがっているような笑みだった。



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