原作設定(補完)

□その13
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銀時が散歩の目的地に選んだのは川原で、ぽかぽか天気に良い感じの風まで吹いて心地良かった。

「すげーー散歩日和。気持ちいいなぁ、勘七郎」

「はぶー」

銀時はごく自然に赤ん坊に話しかけ、それに応えるように声を出す赤ん坊。端からみるとやはりどうみても親子連れで、土方は誤解だと分かってもやはり面白くない。

「………」

やっぱり帰ろうかと顔を背けたとき、

「ぶー」

「ん?喉渇いたか? 多串くん、ちょっとコイツ抱いてて」

そう言って銀時は赤ん坊を土方に手渡した。

「ええっ、ちょっ…俺は、赤ん坊は…」

思わず手を出して受け取ってしまったものの、土方は赤ん坊が苦手だった。

田舎に居た頃、近所の家の赤ん坊が土方に抱っこされるとことごく泣き出したのだ。

おかげで泣き出すんじゃないかとビクビクする土方に、その恐怖感が伝わってくるのか赤ん坊はさらに泣き、すっかりトラウマになってしまった。

土方の戸惑いを無視して銀時は鞄を漁っている。

手の中でぐにゃりと柔らかい感触に怯えながら赤ん坊を見ると、向こうも土方をじっと見つめたあと顔をくしゃりと歪めた。

「……ふぇ……」

『泣くっ!?』

土方が肩を縮めて甲高い泣き声を覚悟したとき、

「ぶぇくしゅんっ!」

壮大なくしゃみと共に鼻水がだらーんと垂れ下がる。

『汚っ!』

鼻水を垂らしたまま無表情の勘七郎に土方が渋い顔をしているので、それを見た銀時が笑って言った。

「大丈夫だよ、コイツ全然泣かねーから」

銀時は鞄から取り出したハンカチで鼻を拭き、飲み物の入った哺乳瓶のを勘七郎に渡した。

小さい手でそれを器用に持ちゴクゴクと飲む間も、土方が不器用な手付きで不安定に抱っこしているのに気にならないようだ。

確かに今まで見てきた赤ん坊よりずいぶん神経が図太い。

勘七郎を見る素振りで、土方が焦ったり驚いたりする様子を見ていた銀時は、内心勘七郎に“グッジョブ!”と親指を立てた。

そして土方を放って芝生の生えた土手に、

「あーっ、こんな天気良いと眠くなるよなー」

そう言って寝転んでみた。

「おい、これ…」

「んー?」

両腕を頭の下に敷いて寝る体勢を作ってみると、土方はしぶしぶという感じで勘七郎を抱いたまま隣に座った。

土方に逃げられないための方法だったので、座る気配にホッと息をつく。

土方は足を曲げて座ると膝の上に勘七郎を座らせ、真正面から見えるようにしてみた。

泣かない赤ん坊をじっと観察するのは初めてだった。

『手ちっさ、鼻ちっさ、口もちっさ』

こんな小さな身体に自分と同じパーツが揃っていることに感動していると、

「ぶ、うー、おぅ、ぷー、だう」

「??」

勘七郎が土方に話しかけるように何か言ってくるが、当然意味は分からない。

銀時は薄く目を開けてその様子を盗み見る。

「何言ってるかわかんねーよ」

つい返事をしてしまった土方は、赤ん坊に何話しかけてんだと恥ずかしくなるが、勘七郎は、

「……ほぶぅ」

絶妙なタイミングで溜め息まじりの声を出す。

『呆れられたのか?いま』

小さくショックを受ける土方の手をぺちぺちと叩き、「はぷん」と言った仕草も顔も今度は慰めているかのようで、今まで泣いて騒いでうるさいだけの存在だと思っていた赤ん坊が愛らしく感じた。

『かわいい』

思わずにっこりと微笑んでしまった土方。

を、盗み見てた銀時は寝たふりのまま悶絶。

『だぁぁぁあああ!! かわいっ、てめっ、かわいすぎっ』

小さく身動ぎする銀時に気がついたのか、勘七郎が銀時のほうへ手を伸ばすので、

「ん?そっち行くのか?」

土方は勘七郎を銀時の腹の上に乗せようとするが、勘七郎の手が土方の着物をしっかりと握っていたため、そのまま一緒に引っ張られる。

赤ん坊の力なので振り解くことはできたが手加減が分からず、土方も引っ張られるまま銀時の隣に寝転ぶ形になってしまった。

土方を捕まえたまま銀時の腹に着地した勘七郎はぺたーっとくっ付き、ほどなく眠そうな目を閉じて寝てしまう。

勘七郎との短いスキンシップのおかげか、二人の寝顔を見比べた土方は、

『やっぱりクリソツじゃねーか』

そう思う気持ちから怒りも不安も消え、暖かいモノだけが湧き上がってきた。

実際のぽかぽか日和との相乗効果により、土方もいつのまにか眠くなってきて目を閉じる。



静かになった三人にこっそり歩み寄る人の影。



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