原作設定(補完)
□その13
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「多串くんっ、待てってっ」
そう声をかけたがスタスタと超早歩きの土方の上に、勘七郎を抱っこしているため走れない銀時はなかなか追いつくことができない。
振り向くこともせずにおかまいなしに歩く土方に、銀時はつい荒い口調で、
「おまっ、赤ん坊抱っこしてんのに走らせんなよ」
と言ってしまうが、土方には苛立ちが割増すだけだった。
『あんなとこ見せておきながら謝るどころか逆ギレかよっ、てめーなんか……』
胸が締め付けられて苦しいのに口に出すこともできず、土方はここから早く逃げ出したいと思ったが、右腕を掴まれて引き戻される。
開いた方の手で土方の腕を強引に引っ張った銀時に文句を言おうとしたとき、すぐ横をゴウッと音を立ててトラックが通り過ぎて行った。
「赤信号だよ、多串くん」
そこは横断歩道で、見ると信号は赤だった。
苛立ちで信号が見えていなかったこと、銀時に助けられたこと。
気恥ずかしさと礼を言えない遣り切れなさに、顔を反らしたまま不機嫌そうな顔をしている土方。
それを見て銀時は小さく笑う。
最初は怒っている土方にうろたえたが、よくよく考えてみれば、怒っているということは勘七郎とお房に妬いてくれたということだ。
一月前勘七郎に会った時、土方のことを思い出して、
『怒られるぅぅぅ……………わけねーか。“ああ、そう”とか興味なさそうに言われるだけのような気ぃする……切ない』
なんて推測して落ち込んでしまったのだが、どうやら妬いてくれるぐらいには好きでいてくれてるらしい。
「えっと。説明させてもらってもいいですかね」
「…いらねーよ、別に」
「いや。ぜひ聞いてもらわないと銀さんの信用に係る」
「最初からてめーなんぞ信用してねえ」
「かもしんねーけどさ、いいからちょっと聞きなさいよ」
頑固としてこっちを見ようとしない土方に、勘七郎が見えるように身体ごと移動してやった。
ようやく赤ん坊を目に留めたものの、近くで見てもやっぱり似てる、とよけい眉間にシワを寄せる土方に説明してやる。
「こいつ、橋田勘七郎。さっきのが母親、んで……」
ゴソゴソと勘七郎の懐に指を入れると、住所と名前が書かれた迷子札のようなものを取り出し、それを裏返す。
そこには銀髪天然パーマの男の写真が納められていた。
「これが父親。勘七郎が生まれる前に死んでんだけどさ」
確かに特徴は銀時とよく似ている。亡くなった原因は病気なのだろうか、写真は笑顔だったが生気がない表情をしていた。
それでも、赤ん坊のふてぶてしい相貌はやっぱり……。
「………お前のほうが似てる」
「みんなそう言うけどさっ、でも違うから」
「分かんねーだろ、そんなん」
「お前ねー、それは俺にも母親にも失礼だから」
あまりの信用のなさに切ないような呆れたような溜め息をつく銀時。
このぐらいの赤ん坊が何歳になるのか分からないが、たとえ銀時があの母親と付き合っていたとしても、土方とそういう関係になるずっと前の話だ。
過去の話で不機嫌になられても迷惑この上ないし、銀時がそういう嘘やごまかしをするとは思えないのは分かってる。
誤解だったことへの、申し訳なさと嬉しさを顔に出せずにいる土方に、銀時のほうから動いてくれた。
「多串くん、私服ってことは非番だろ。散歩行こう、散歩」
銀時は笑ってそう言い、土方の手を掴むと歩き出す。
後ろめたさのせいで土方はその手を振り払えず、そのまま大人しく手を引かれるまま付いて行った。。
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