原作設定(補完)
□その13
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『俺の気のせいだったのか。たまたま機嫌悪かっただけで、多重人格とか、んなことあるわけねーよな』
軽い足取りで町を歩いていた銀時だったが、
「旦那じゃねぇですかぃ。ずいぶんご機嫌そうですねぇ」
そう声をかけてきたのが沖田だと気付き、“沖田くんと言えば土方が見張ってる確率が高い!”と振り返った。
期待とは裏腹に、のんきな顔をした沖田の隣でやっぱり土方は不機嫌な顔でそっぽを向いている。
せっかく気持ちを切り替えたのに、また不安が胸いっぱいに広がってしまった。
「旦那?」
「え?あ、うん、良い天気だからね」
「…へえ…」
沖田は空をチラリと見る。バッチリ曇り空だ。
しかし銀時の意識が誰に向いているのか興味がないらしく、沖田はすぐ近くに団子屋があるのを見て、
「ちょうどいいや、休憩してきや〜す」
そう言ってさっさと歩いて行ってしまうが、お目付け役の土方は何も言わず、追おうともしない。
立ち止まってくれている土方に、銀時はちょっと躊躇った後で声をかけた。
「土方」
「…なんだよ…」
こちらを見もせず答えた土方の横顔を見つめ、銀時の胸はざわつき痛んだ。こっちを見て笑って欲しいだけなのに。
「……やっぱいいや……」
「なにがいいんですかぃ?」
顔を反らした銀時の横から、団子を両手いっぱいに持った沖田が顔を出したので、
「総悟っ、てめーなに買い食いしてんだっ!」
土方はそう怒鳴って、ぴゅーっと逃げ出した沖田を追いかけて行った。
銀時は深い溜め息をつく。
『…やっぱりアレは俺の土方じゃねーんじゃねーの…』
そう思わずにはいられなかった。
数日後、いつものように市中見廻りをしていた沖田がきょろきょろしながら呟いた。
「そういや、旦那見ませんねぇ」
「……アイツだって忙しいときぐれーあんだろ」
「プラプラして誰かさんの顔を見るのが仕事かと思ってました」
しらっとした顔でそう言う沖田を睨みつけ、土方も周囲に視線を走らせる。
沖田にそう言われても仕方がないほど、銀時は毎日プラプラしていた。何のために、なのかは分かっている。
それが途絶えた意味を考えて、土方は眉を寄せた。
万事屋のデスクで頬杖をつき、銀時は深い溜め息を付いた。
…という毎日同じフリの銀時を見て、新八は心配+呆れた顔で声をかける。
「じゃあ、銀さん、僕たち帰りますね」
「……たち?」
「? 神楽ちゃんですよ。今日は土方さんが来る日ですよね?」
カレンダーを見て新八がそう言った通り、土方の非番の日はちゃんとマヨマークが記入されていた(マヨは神楽が描いた)。
すっかり忘れていたことと、
『……そういえば連絡なかったな……いつも前日に電話くれんのに……』
その事に気が付いて銀時が表情を曇らせるので、新八がなにか言おうとしたとき神楽が邪魔をするように腕を引っ張った。
「じゃーな銀ちゃん、散らかすなヨ、戸締りしろヨ」
「子供かっ」
そのまま万事屋を出て恒道館までの帰り道で、
「大丈夫ネ、明日には元気になってるアル」
「え?なんで?」
「女の勘ネ」
なんてことを言われ、本当かなぁと疑いながらも、新八は神楽の勘を信じてみることにした。
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