原作設定(補完)
□その13
22ページ/22ページ
#130
作成:2015/10/01
土方は疲れた足取りでかぶき町を歩き、万事屋までやってきた。
本当はもっと早くに来る予定だったのだが、連日掛かりきりだった雑務が終わらなかったせいで、到着したときには日付が変わってしまい溜め息をつく。
「…ったく、あいつらがもっとサクサク働いてくれりゃーなぁ…」
飽きてすぐフラフラとどこかへ行ってしまいそうになる上も下もまとめないとならない中間管理職の永遠の悩みだ。
鍵のかかっていない扉を開けて中に入り、あるはずのものがなくて首を傾げる。
いつもなら扉が開くと同時に出てくる家主の姿のことだ。
『いねーのか?』
そう思いながら中へ入ると、デスクに肘をついて椅子にだらんと座りテレビを見ている銀時がいて、その背中は思いっきりふて腐れていた。
「……おい……」
「なに」
振り返りもしない銀時に、土方はイラッとしながらも思考を巡らせる。
銀時がここまで怒るのは実は珍しいことだった。今日のように土方が仕事で遅れるのはほぼいつものことだし、来れない事だってよくある。それでも顔を見れば銀時は笑ってくれていた。
それに甘えすぎてしまい、とうとうキレられてしまったのだろうか。
「……あー……遅くなって悪かった……」
反省するとともに素直に謝ってみたのだが、銀時は振り返らない。
「べつに〜。いつものことじゃね」
「……じゃあ、なにを怒ってんだよ……」
「怒ってねーよ」
『完璧に怒ってんじゃねーかっ』
「てめー……」
ずっと土方を拒絶している態度丸出しの銀時に、土方の反省も早期終了してしまった。
そっぽ向いてる顔をガッと掴んで問い詰めてやろうと近づいたとき、テーブルとソファの間にカラフルなゴミが落ちているのに気付く。
手に取って見ると、くしゃくしゃになってる細い紙テープがずるーっと出ててきた。これには見覚えがある。
クラッカーの中身だ。
『なんでクラッカーなんか……』
そう思いながらあたりを見回し、日付は変わってしまったがめくられていない日めくりカレンダーが目に止まった。
“10日”
背中に嫌な汗が流れる。
10月10日。その日に大事な意味合いがあることをちゃんと知っていたし、ちゃんとしてやろうとは思っていたのだ。
先週までは覚えてた、とか、忙しくてすっかり忘れてたんだ、とか、拗ねるよーな年でもねーだろ、とか。
そんなことを言っても銀時の気が晴れるとは思えなくて、土方も黙ってしまった。
土方が気付いたことに気付いた銀時が、
「ちょーっと期待してた俺がバカだったんだから気にすんなよ」
なんて言い出すので、その言い草が憎たらしくても気にしないわけにはいかない。
土方は、究極にふて腐れている銀時に何をしてやるのが一番喜ぶのだろうかと考えて、出てきた提案をはっきりきっぱりと言ってやる。
「分かった。じゃあ、なんでもかなえてやるから1つ言えよ」
それを聞いてようやく振り返った銀時だが、眉間にシワが寄っていてちっとも嬉しがっていなかった。
いつもだったら「パフェ食い放題」とか「土方くんからピーーッ(自主規制)」とか仲直りするための妥協案を出し、なんでもなかったようにイチャイチャできるのだが、今日は無理だったようだ。
土方を待つ間に迷走しまくったネガティブ思考は、相手を繋ぎとめるための究極の選択まで行き着いていた。
「じゃあ、結婚して」
“できるわけねーだろぉぉ!”と言い返されると分かっていて言ったのだが、
「……分かった」
土方がそう答えたので、面倒くさくて流されたんだと銀時は逆に悲しくなってしまう。
言い返してしまえばもう今日は仲直りできないかもしれないのに、銀時はふて腐れたように呟いた。
「…できねーくせに…」
「……てめーも、できねーって分かってて言ったんだろ」
全部お見通しだという顔で土方は小さく笑う。
みんなが祝ってくれるようになって特別になった誕生日。今日の約束を楽しみにしてたのに日付は変わるし、大人気なく拗ねて落ち込んでいた上に土方は忘れてるし。最初は怒ってたしそれをアピールしてみたものの、土方が申し訳なさそうにしているとそんなものは長続きしない。
つまりは、出した牙を引っ込めるタイミングを見誤った銀時に、土方がそのタイミングを作ってくれたのだ。
銀時はバツが悪そうな顔をして立ち上がると、
「ん」
両手を広げて“本当に欲しいもの”を受け取る体勢を作った。
土方が笑って近寄ってきてくれたので、その身体をしっかりと抱き締める。
「誕生日おめでとう」
「…うん…」
土方が素直に耳元で囁いてくれたので、銀時も素直に受け取って笑った。
おわり
うーん。セリフだけを考えて、その間を埋めていくのに時間がかかった。
もっと普通にイチャイチャするだけの話だったんですが、ちょい暗くなりましたね。
ま、オチはいつもと同じですが。