原作設定(補完)

□その13
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#128  2015/09/16


真選組屯所。

昼食後の茶をすすりながら沖田がとんでもない世間話を始めた。

「近藤さん、万事屋の旦那に隠し子がいるって知ってますかィ」

「なにぃぃぃいい!?ホントか!?」

「旦那に瓜二つでしたから、言い逃れはできそうもないですぜ」

「フラフラしてそうだもんなー、あいつ。子供の一人や二人ぐらい………ん?」

ぶちゅぶちゅぶちゅ

衝撃的内容に興味津々の近藤だったが変な物音がしてその方へ顔を向けると、土方がどんぶりをじっと見つめたままマヨを使っている音で、それはどんぶりからはみ出す勢いで搾り出されている。

「…おい、トシ、だらだらこぼれてるぞ、マヨが」

「! …ああ」

ぼーっとしていたのか言われて気付いた土方はこぼれたマヨを布巾で拭い、沖田が話を続けるも、興味なさそうにどんぶりを掴んでガツガツと食べ始める。

「爺さんも出てきて孫の取り合いで揉めたみてーですが、どうやら落ち着いたようですし、所帯もって親子三人仲良く暮らすんじゃねえですかィ」

「うんうん。男はやっぱりそうでなきゃなー」

うやましいのか近藤がしんみりと頷いていると、どんぶりを置いた土方が立ち上がって言った。

「………近藤さん、俺は今日非番だから出かけてくるわ」

「おう。久々の非番だからな、ゆっくりしてこい」

「ああ」

「いってらっしゃ〜い」

にやにやと笑いながら沖田が手を振るが、土方には見えていなかったようだ。

残された近藤がさらに首を突っ込んでくる。

「それで?どこの娘だったんだ?」

「橋田屋って財閥の…」

「大財閥じゃねぇか、逆玉かぁ!?」

「…一人息子が駆け落ちした相手で、病弱なその息子は子供の顔を見る前に死んじまったらしいですぜ。泣かせる話でさ」

「………それじゃ、万事屋の子供じゃねーんじゃねーか?」

「“かもしれない”って言いやせんでしたか?」

「ねーよ。そういう話はちゃんと説明しないと誤解されちゃうでしょー」

肩透かしを食った近藤に見えないように、沖田は再度にやりと笑った。

『誤解させようとして言ったんでさぁ』




『別にあいつに隠し子がいたからって俺には関係ねえ』

外出した土方はそう思いながらもイライラムカムカが重なり、不機嫌丸出しの顔で真選組とは逆方向へ歩いていた。

スーパーへ買出し出てきたのだが、怒りにまかせてお徳用マヨを買い込んでしまったのでレジ袋が手に食い込んで痛む、

『……関係ねーけど、あいつの顔をみた途端にコレがヤツに向かって行ったとしても事故だよな、うん……』

物騒なことを考えながら歩いていたら、“標的”を見つけてしまった。

赤ん坊を胸に抱き、向かいには女が立っている。



「それじゃあ銀さん、急で悪いけど勘七郎お願いね」

銀時はお房から勘七郎と荷物と預かると、自分をじっと見つめている赤ん坊に吹き出す。

「久しぶりだなー、勘七郎。元気そうじゃねーか」

「ぷっ」

相変わらず赤ん坊のくせに無表情だ。

「夕方までには戻るから」

「ああ、気ぃつけて行けよ」

依頼として子守を頼まれたので、ここで待ち合わせして勘七郎を預かった。

あれから一月ほど経っていたが、改めて見ても自分に似てて怖いぐらいの勘七郎に、

「あ、そういや、例のもんは……」

「首にかけてあるから大丈夫よ」

銀時はみんなに誤解されない手段を考えて、ある物をお房に頼んであったのだ。



その様子を遠くから見ていた土方は、会話の内容は聞えなくても仲睦まじく端から見るといい感じの雰囲気な二人に、息が止まり、手から力が抜けてマヨが地面に落ちる。

ドサッと重い音がして銀時が顔を上げると、道の向こうに土方が立っているのに気が付いた。

「!!!!」

不意打ちの遭遇に、銀時は思わずうろたえてワタワタしてしまい、それが土方の目には“後ろめたさの証明”に思えた。

「………」

銀時をギッと睨みつけると、ゆっくり地面に落としてしまったレジ袋を手に取る。

『怒ってるぅぅぅ。え、それ投げる気!?ドサッっていったよ。ロープ、ロープ。凶器は反則だからっ』

「多串くんっ、ちょっ……」

危険を回避しようとなんとか声を絞り出してみたが、

「………」

凶器を投げつけられるかと思いきや、吊り上げた土方の眉は逆方向に下がる。

後ろを振り返った女と、銀時の腕に抱かれたヤツにそっくりの子供。

三人の姿を見たら間違っているのは自分のほうなのだと思い知らされ、土方はくるりと背中を向けて歩き出した。

一瞬のことだったが、その顔がとても悲しそうで、

『えええええっ。それはそれで反則ぅ』

胸をぎゅーっと締め付けられた銀時は、勘七郎をしっかり抱き直してお房に声をかけた。

「そ、そんじゃ、勘七郎はまかせとけっ」

「よろしく〜」

そして急いで土方の後を追った。



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