原作設定(補完)
□その13
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#125 2015/09/07
布団の中で浅い眠りについたばかりの土方は、鳴り響くコール音に目を開けずに携帯を手に取る。
「…はい、土方…」
『おー、オレオレ』
その声には嫌というほど聞き覚えがあるし、聞きたかった声でもあるが、あえてとぼけてみた。
「こちら警官。詐欺なら受け取りにきたヤツ、即切腹……」
『物騒だなっ!詐欺じゃありません〜、愛しの銀さんだろーがっ』
「バーカっ」
笑いながら部屋に置かれている時計を見ると12時前だ。こんな時間に銀時が電話をかけてくるのは珍しい。
「なんの用だ?」
『…おまっ、どの口でんなこと言ってんですか?二週間以上もチューさえさせねー薄情な口で言ってんですか?』
3日前に久し振りのデートをドタキャンされてから連絡がなくて我慢できなくなったらしい。
土方も悪いと思い今日こそは連絡しようと思っていたのだが、いろいろ限界だったため布団にもぐりこんでしまった。
そんなことを知らない銀時は、電話の向こうでブツブツと愚痴っている。
『そりゃあさー、お前は俺に会えなくても平気なんだろうけどさー』
平気だと思い込もうとしていた。そうでなければ真選組副長として隊士たちに背中を見せられない。
だけど、声を聞いただけでこんなに嬉しいってことを、銀時にだけは伝えておきたくて素直な気持ちを口にした。
「…そうでもねぇ…」
『まじでか』
「……ん……」
銀時の声が嬉しそうで、余計に会いたくなったなと思ったとき、
『分かった!じゃあ、1分でそっち行くから!!』
銀時はそう言いきって電話は切れた。
「1分!?」
通話の切れた携帯を見ると、着信履歴の一番上には真選組屯所の固定電話番号が表示されていた。
1分後、廊下側の襖が静かに開き、そっと忍び込んでまた静かに閉まる。
そして背中を向けている土方の隣に寝転ぶと、布団の上からぎゅーっと抱き締めた。
銀時が来ると分かっているのにそっぽを向いた土方は、少し怒っているらしい。
「どこに居たんだてめー」
「ゴリさんの部屋」
「…なんで…」
「スマイルで臨時の雑用係してたらおたくの局長さんが来てさ、お妙に殴られたり、やたら飲まされたりで潰れちまったから、迎えにきたヤツそそのかして一緒に来た」
お得意の適当な口ぶりで一緒に車に乗り込み、屯所に入り込んでくる銀時の姿が容易に想像できた。
それでも、だったらなんですぐに副長室に来なかったのだと思う土方に、銀時は電話で言えなかった愚痴の続きを聞かせてやる。
「ゴリさんだって忙しかったんだろうけどさー、仕事明けにすぐお妙に会いに来てんじゃん」
「……二人で屯所を空けるわけにはいかねーんだよ」
「ふーん」
「……悪かった」
いつもどおり真選組と近藤を優先させただけのことだったが、銀時にそんな風に言われてしまうと罪悪感と寂しさが強く湧いてきてしまい、思わず謝ってしまった土方に銀時があっさりと返す。
「悪くねーよ」
「あ?」
「お前が仕事好きなのも大事なのも分かってる。俺のことはその後で全然かまわねーけどよ……」
「……けど?」
「電話ぐらいしろってーのっ。毎日テレビ画面でお前が元気そうだと確認するしかねーとか、切なすぎんだろーが」
3日前ドタキャンしてからの真選組は本当に忙しかった。
予告テロだの爆破テロだの立てこもりテロだの、それらがテレビで放送されていたようだ。
速報テロップで不安になってニュース番組で土方の姿を探してはホッと息をついたり、自分から電話しようかと受話器を取っては状況が分からない状態では邪魔になるんじゃないかと止めてしまったり。
いざというきに見ているだけ、待っているだけしかできないことが、銀時には辛いことだった。
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