原作設定(補完)
□その12
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チャイムも鳴らさず万事屋の扉を開けて中に入る。ガキ共の靴はない。
リビングでは万事屋がソファでふんぞり返っていて、入ってきたのが俺だと分かって嫌そうな顔をして言った。
「警官が不法侵入ですかぁ。玄関にはチャイムってもんが…」
憎たらしい物言いは無視して、テーブルに持ってきたレシートを叩きつけてやった。
「……どういうことだ……」
怪訝そうな顔でそれを手にとりじっと見つめたあと、可笑しそうに笑った。俺の“知ってる”万事屋の顔で。
「おまっ、なんでこんなもん保管してんですか。いまどきの中学生だってんなことしねーよ」
俺の記憶に間違いはない、アレは2人で行ったものだった。告白したことも付き合ってたことも夢じゃない。
コイツにあんな態度を取られたら俺は深く追及できないことも、他の誰かに相談することができないことも知ってて、わざと突き放したのか。
「……なんで……」
問いかける俺に、答えた万事屋は少し不機嫌に見えた。
「少しは俺の辛さが分かったかよ」
なんでお前がキレてんだ、怒りたいのは俺のほうだろう。お前こそ、一週間、俺がどんな思いをしたと思ってんだ。
「…何をだよ…」
「俺は傷付いてたんですぅ」
そうは見えねーよ。
「お前に俺たちのことは他の奴らには言うなって言われて、最初はそんなシチュもありかなと思ってたけど……なんかおかしくね?」
なにがだよ。
逆ギレしそうになるのを我慢するため外した視線の先に、ぎゅっと握り締めた万事屋の手が見えた。
「お前が、入院したって聞いても駆けつけることもできねー、目を覚まさないって知ってもそばに居られねー、あいつらの目を盗んで忍び込まねーと顔も見れねーとか……おかしいだろうが」
…なんだ…会いに、来てくれてたんだ。
嬉しい気持ちの後に、悲しみが湧き上がってくる。もし俺が同じ立場だったら、と考えたら胸が苦しくなった。
側に行きたい、側に居たい、手を握り締めて早く起きろってずっと祈っていたい。
それを“できない自分”を、万事屋に負わせていたんだ。
何も言わない俺に、万事屋はバツが悪いような顔をした。たぶん俺がすげー情けない顔をしていたんだと思う。
「……だから……片方が忘れたりしたら無かったことになっちまう関係だって分かって欲しかったんだけど……やりすぎた、悪…」
万事屋が謝るのを遮って抱き締めてやった。やっと触れた。
俺の意図を察して、万事屋もそれ以上何も言わず、抱き締め返してくる。
目を覚ましてからずっと会いたくて触れたくて、だけど夢なんだと諦め続けた暖かさともふもふ。
堪能する俺に、抱き締める力を強くした万事屋がにやりと笑った。
「ついでだし?新八と神楽に俺らのことを報告しようぜ」
「……い、いい、今か!?」
「そのほうがいいだろうが。………お前がどうしても嫌だって言うなら無理強いはしねーけど……」
心臓がものすごい速さで動き出した。
他のやつらに俺たちのことを言えなかったのは、恥ずかしいからとか、らしくないからとか、そういうのももちろんあったのだが、一番強かったのは拒絶されたらどうしようという思い。
近藤さんに、総悟……はどうでもいか……隊士たち、それにガキ共に分かって貰えないのが怖い。
だけどそれをやらなきゃ、また万事屋に辛い思いをさせてしまうかもしれないのだ。
「………むい……」
「あ?」
「眠い。ずっとよく眠れなかったから……眠くなった」
「何を……………あー、んじゃ、銀さんの膝枕貸してやろうか?」
ふざけた口調でニマニマしながら言うので、抱き締めていた腕を離してソファに座ると、頭突きするような勢いで言葉に甘えてやった。
「いだぁぁぁあああ!!おまっ…」
「寝る………二人が帰ってきたら起せ」
背中を向けているので見えなかったが、たぶん万事屋は笑っているはずだ。
「了解」
そう言ってさっきのお返しなのか頭を撫でてくれる。
ゴツゴツして寝心地の悪い枕だし心臓が暴走中で眠れそうにないと思ってたのに、万事屋の手のひらが心地よくて、本当に眠くなってきてしまった。
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