原作設定(補完)
□その12
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記憶の戻った銀時は、愛しの土方のところへ一目散に走って行った……かと思いきや、まだ万事屋に居た。
幸い壊れずに済んだ椅子にだら〜んと座り、相変わらずぼんやりとしている。
それをチラ見した新八は、壊れた机に応急処置(板を打ち付けるだけ)しながら話かけてみる。
「銀さん、出かけないんですか?」
「んー」
「せっかく記憶が戻ったんだから……デートの相手に謝りに行くとか」
「んー」
「土方さんと遊びに行くとか」
「んー」
上の空な返事しかしない銀時に、新八はちょっと気になっていたことを遠慮がちに聞いた。
「…もしかして、デート相手って土方さんですか?」
「………」
「やっぱり。銀さんあっちこっち手が出せるほど器用じゃないですもんね」
「何も言ってませんけどぉぉ?」
「尋常じゃないぐらい汗かいてますよ」
新八に言い当てられてドッとかいた汗を拭いながら、うな垂れる銀時。
深い理由があって黙っていたわけではないのだが、男の土方相手に浮かれまくっている自分が照れくさくて言いそびれてしまったのだ。
二人が知っていたら病院でも、銀時を薄情者扱いし土方を慰めて、あんな顔をさせずに済んだのに、と思う。
落ち込む銀時を無視し、新八は納得顔でうんうんと頷いた。
「だからずっと真面目に働いてたんですね」
「あ?」
「わりと面倒な依頼まで全部こなしてたじゃないですか。そうですよねー、土方さん相手じゃせめてワリカンにするぐらいの見得しか張れませんもんね。イケメンだし、高給取りだし、将来有望だし」
グサグサと銀時の胸に鋭く突き刺さる“本当のこと”を言ってくれる新八に、銀時はゆらりと立ち上がる。
「し〜ん〜ぱ〜ち〜っ……」
「わぁぁつ、すいませんっ! つい本音が……」
「……出かけてきます」
「……いってらっしゃ〜い」
肩を落として出て行く銀時を見送り、ちゃんと仲直りして、ずっと楽しそうだった銀時に戻ってくれればいいなと思う新八だった。
本当はすぐにでも会いに行こうと思った。会って謝って、泣きそうな顔で怒ってくるだろうから抱き締めてやりたかった。
だが、ふと疑問に思ってしまう。
なぜ、土方は何も言わなかったんだろう、と。
病院でも、町で会った時も、何も知らない銀時に合わせて関係ないフリをした。
「……なかったことにしてーのかな……」
溜め息を付きながら当て所も無くプラプラしていると、私服だけれど見知った姿を見つける。
コソコソしているその首根っこをグイッと引っ張ると、建物の陰に隠れていた山崎は大声を上げそうになるのを慌てて止めた。尾行の真っ最中なので目立つわけにはいかない。
振り返って相手が銀時だと知ると、潜めた声で怒鳴ってくる。
「旦那ぁぁ、じゃませんでくださいよっ! 今仕事……」
「…副長さん、元気?」
「は? 元気なわけないじゃないですかっ。あれからずっと落ち込んで……って……あれ?」
土方のことを尋ねる銀時の顔が申し訳なさそうだったのを見逃さない。
「次の非番いつですかね?」
「ああ、えっと…たぶん、明日だったと思いますけど」
「あ、そ」
それだけ確認して姿を消す銀時に、これでもう大丈夫だろうと山崎はホッと息を付き、尾行の途中だったことを思い出し慌てて後を追った。
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