原作設定(補完)
□その12
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「副長、戻りました」
「おう」
使いに出ていた山崎が副長室に入ってきたのを、土方は背中を向けたまま迎える。
荷物の置く音と、ふわりと漂う花の香りに土方は振り返った。
「んだ、そりゃあ」
「帰り道で貰ったんです、万事屋の旦那に」
「……なんで、アイツがそんなもん」
「副長にって……」
「なっ……」
「……言ってませんでしたが、副長が一番似合いそうなので差し上げます」
「………や〜ま〜ざ〜き〜っ、そりゃあ俺をバカにしてると理解していいんだろうなぁ」
「とんでもないっ、失礼しまっす!」
逃げるように山崎が部屋を出て行って静かになると、土方は香りを漂わせて存在感をアピールする花束に、しぶしぶ手を伸ばす。
「どうせ福引かなんかで貰ったもんだろ。花束の1つや2つ、渡す女ぐらいいねーのか」
そう口にしたものの、そんな女が居るとしたら自分の存在価値は無くなってしまうのに、と胸が痛いんだ。
酔った勢いではじめた関係。それは銀時にとっての都合の良い理由であって、土方にとっては自ら望んだ関係だった。
銀時が自分に興味を持ってくれるように振る舞い、それにノッテくれたのを幸いと身体だけの関係を続けている。
最初はそれだけでもいいと思っていたのに、だんだん“それだけ”なのが辛くなってきて……。
『そんな女が居るなら……俺は諦めなくちゃならねーんだろーな』
痛む胸に花束を添えるように抱き締めると、堅いものが手に当たった。
取り出してみると、それはメッセージカードのようで、不安になりながらそれを開く。
そこには綺麗な字で花の名前と、筆跡の違う文字で花言葉が書かれていた。
“優しくて、綺麗で、強くて、可愛い、君が好き”
ぐっと息を飲む。
貰い物なら意味なんてないのかもしれない、銀時はこんな意味知らないのかもしれない。
そう必死で思い込もうとしたが、堪えきれずに花束を掴み部屋を飛び出した。
銀時は家に戻り、今度こそ人目のない和室でゴロゴロと転げまわっていた。
花束がなくなったのに、ずーーーっと同じ事を繰り返し考えては悶絶しているのだ。
『たとえそうだとしても、もう遅くね?今更そんなこと言っても遅くね?アイツだってそんなの信じてくれねーだろっ』
ネガティブ思考に振り回されて悶えているところに、玄関のチャイムが鳴る。
新八が居ないのでしぶしぶ応対に出ると、そこには土方が立っていた。
「ひじ……」
名前を呼ぶ前に、目の前に差し出された花束。
銀時の苦悩の原因が舞い戻ってきて、おまけに苦悩の要因が揃ってしまい、顔が一気に熱くなった。
真っ赤になった銀時を見て、土方はようやく胸が軽くなった。
『銀時は花束の意味も知ってるし、俺はもう自分の気持ちを黙ってなくていいんだ』
銀時があわあわしながら何かいいわけしようとしているので、土方が先に言ってやる。
「これ、俺が貰っていいのか?」
「あ?」
「俺が…受け取っていいのか?」
目を歪ませてそう言った土方の顔も真っ赤で、銀時も“土方が花束の意味を知っている”ことを知った。
その上で受け取っていいのかと訊ねてくる理由を、聞き返すほど鈍感ではない。
土方への気持ちに気付いてから1時間とちょっと。
幸運にも高速で向こうからやってきてくれた“優しくて綺麗で強くて可愛い君”に銀時は笑ってやるのだった。
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メモなしは時間がかかる〜。
冒頭だけは書いてあったんですが、たぶんその時とオチが変わってるだろうなぁ。
どんな話だったのか思い出せないまま、こういう話になりました。
………ま、二人が幸せならいいか(笑)