原作設定(補完)

□その12
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#120  2015/08/21



病院の廊下を急ぎ足で歩く土方に、山崎が同じように着いてくる。

全力で駆け出したいのを堪え、ようやくたどり着いた病室では、

「あれ、土方さん、こんにちは」

「もがっ?はぐががっ」

「銀ちゃん、汚いネ。リンゴ食いながら喋るんじゃねーアル」

リンゴを剥きながら挨拶してきた新八、口いっぱいにリンゴを頬張って何か言った銀時、口をぐちゃぐちゃにしただらしな大人を冷たい目で見ている神楽、いつもの万事屋トリオが居た。

違うところと言えば、銀時が頭や腕にぐるぐる包帯を巻かれてベッドに寝ているところぐらい。

安心して気が抜けたせいか、土方はとっさに言葉が出なかった。

「えっと……旦那、大丈夫なんですか?」

何も言わない土方に気をつかいながら、山崎が問いかける。元はといえば、山崎が「旦那がケガで病院に運び込まれたらしい」という情報を持ってきたために、こうしてやって来たのだ。

多少のケガでは病院にも行かず(金がないから)、数日後にはケロッとしている銀時だったので、よほどのことかと思って心配したのにこの様だ。

「あははは。仕事先でケガをしたもんだから依頼主の人が心配して入院させてくれただけで、たいしたことないんです」

「もごごがはっ!(大したことあるわぁぁ!!)」

包帯を指差して反論しながらまだリンゴを口に入れる銀時。

おそらくその依頼主からのお見舞いなのだろう。山ほどのリンゴを神楽と競い合って食べているようだ。

「自業自得ですよ。浮かれ気分で屋根の修復してるから、足を滑らせて落ちたところに突っ込んできた車を避けて転がった先に居た子供を飛び越えたら壁に後頭部を思い切りぶつけたんじゃないですか」

思い浮かべるのが困難な漫画みたいな状況で、頭と腕を怪我したらしい。

これだけ元気なら大丈夫なのだろう、と山崎は一安心し、土方をチラリと見る。

呆れ30、怒り30、安心40。そんな割合の表情をしていた。

しかし、リンゴをひょいひょい口に放り込んでいた神楽が手を止めて言った。

「たいしたことならあるネ。銀ちゃん、またくるくるパーになったアル」

「え?」

もちろん天然パーマのことを言っているわけではない。どうやら記憶喪失のことのようだ。

「いえ、前と違って全部忘れちゃったわけじゃないんですけど、ここ数ヶ月のことだけ覚えてないみたいで…」

「…数ヶ月?…」

「はい。銀さん、今日は何日でしたっけ?」

そう聞かれて、もう答え飽きたのか口のリンゴを飲み込んだ後、ふて腐れたような顔で答える銀時。

「だ〜か〜らっ、5月6日だっつーの」

「ぶっぶーっ、今日はもう8月3日ネ」

「約三ヶ月ぐらい飛んじゃってますね」

土方の心臓がドクリと脈打つ。嫌な汗が背中を流れ落ちた。

「そ、その間のこと、何も覚えてないんですか?」

「あ?あ〜……覚えてねーつーか、俺にとっては今朝のニュースで言ってた日付が今日なわけだから……」

銀時も“記憶がない”というのを納得していないような顔をしている。

いつも通りなんら変わらない状況から、日付だけが3ヶ月過ぎていた、そんな感じだろうか。

「まぁ、この三ヶ月間、特に変わったことはないからいいんですけどね」

「そうネ。仕事はねーし、給料も払わねーし、いつも通りのマダオだったアル」

「や、やめてくんない。三ヶ月間、銀さんだって一生懸命頑張ってたはずだよ……覚えてねーけど」

自分で自分をフォローする銀時に、新八と神楽は薄ら笑いで首を振る。

相変わらず冴えない自分に落ち込んでしょぼんとしそうになるのを、銀時は土方たちを責めることで堪えた。

「つーか、真選組が何の用ですかぁ?わざわざ様子を見に来るなんて、暇なんですか」

警戒するようなその目つきに、土方の指先からすーっと血の気が引いて冷たくなっていく。喉が渇く。

「旦那っ、副長はっ…」

「……山崎、いい」

土方の変わりに反論しようとする山崎を制し、気付かれないように2度深呼吸したあとには、土方も“いつも通り”の顔になっていた。

「てめーが病院に担ぎ込まれたって聞いてな、近藤さんの命令で……」

「なんだよ、おい、見舞いでも持ってきたんですか」

「香典を持ってきた」

「まだ死んでないわぁぁああ!!」

本当にいつも通りに土方と言い合う銀時の様子に、新八たちも内心ホッとしているようだ。

「香典だけ置いてとっとと帰れぇぇええ!!」

「香典はいいんかぃ」

「本当に死んだら出してやらぁ」

そう言って病室を出て行く土方と、それに着いていく山崎に、銀時が病室からまだ何か叫んでいた。

押さえ込んでいたいろんな感情が一気に戻ってきて、苦しげに眉を寄せる土方に、

「…いいんですか、副長…」

そう山崎が心配そうに声をかける。

新八も神楽も知らないようだったが、山崎はだいたいの事情を知っていた。

「……んな、うまい具合に忘れちまう記憶喪失なんてあるんだな……」



三ヶ月前、俺はあいつに告白した。



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