原作設定(補完)
□その12
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#117 2015/08/18
「4等大当たり〜」
「………」
福引所のお姉さんがにこやかに笑ってベルを鳴らすが、銀時は無表情だった。
お姉さんが差し出したのが、黄色い花束。よく見ると花の形が違っていて、数種類の黄色い花を集めてあるようだ。
「そっちのパフェ一年分と替えてくんない?」
「できません」
「ちぇっ」
「この花束は、花言葉を全部合わせると“優しくて綺麗で強くて可愛い君が好き”って意味になるんですよ〜。好きな人に渡してくださいね」
そう言って後が閊えているからと追いやられてしまう銀時。
手の中の花束を見つめ、
『優しくて、綺麗で、強くて、可愛い…君が好き? ベタじゃね? いまどきこんなもの貰って喜ぶ女がいるかっつーの』
そう思ったもののそのへんに捨てていくこともできず、無造作に持って帰り道を歩き出す。
『だいたい、強くて、ってなんだよ。俺の周りには確かにつえー女しかいねーけど、やっぱりさー、その称号は男に使ってくんねー……』
ふと土方のことを思い出した。
それはなんの脈絡もないことではなく、我ながら「なんでだろう?」と思うこともあるが、土方とはいわゆる“深い関係”を結んでいるからだ。
きっかけは至極ありがちな“酔った勢い”。
たまたま居酒屋で会って、お互いべろんべろんに酔って、酒のつまみにしたモノが悪かったのかムラムラとしてきてしまった。
こんな状態で女をナンパしたり、おねーちゃんのいる店に行ったりするのも面倒で、手近で済ませてしまったというのが本音だ。
そんなことはよくある(?)こととしても、その後もその関係を続けているのは、“ギャップ萌え”というやつだったかもしれない。
普段は犬猿の仲と言っても良い土方が、酔っていたせいか綺麗に笑ったり、銀時の腕の中で可愛く恥ずかしがったり、次に会った時に殺されるんじゃないかと思ってたのに「お互い酔ってたしな」と許してくれてなぜだかちょっと優しくなったり。
想像と違う土方を次々に見せられて興味が湧き、二度目をお伺いしてみたら承諾してくれたものだから、そのまま続いてきた。
『……ああ……そうだな、土方には似合うかもしれない。“優しくて、綺麗で、強くて、可愛い”……………“君が好き”?』
唐突に、銀時の肩に重い想い(シャレ)がどすんと落ちてきた。
『あ?………あああ?………ちょ、ちょっと待てコレ、なんですかコレ……俺が、土方くんを?……はぁぁ?』
往来でなければゴロゴロと転げまわりたいぐらい恥ずかしい考えに辿りついた銀時が、顔を真っ赤っかにする前に背後から声がかけられる。
「旦那じゃないですか、なにやってんですか?」
「………ジミー………」
何やら両手に荷物を抱えている山崎に遭遇し、“なにやってる”と聞かれても当然答えることができなかったので、
「……これ、やる……」
「えええ?どうしたんですか、これ」
「福引で貰った。いらねーから、やる」
隙間に花束を押し込んでぴゅーーーっと逃げ出すしかなかった。目に入るところにあると余計なことを思い出してしまいそうだったから。
「ちょ、ちょっとっ、旦那っ!」
荷物がなくても追いつけないような勢いで逃げた銀時に、押し付けられた花束を見ながら溜め息。
やはり捨てるわけにはいかないので、山崎はなんとかバランスをとりながらそのまま屯所へ帰った。
玄関で荷物を降ろし、銀時から貰った花束を手に取る。
「こんな似合わないモノどうしたんだろう。旦那が自分で買った………なんてことはないよな、あの人貧乏だし。ん?カードが付いてる。やっぱり誰かから貰ったのか?」
花束を包むカラフルな紙の隙間に、カードが添えられていた。
一瞬だけ“銀時の色事情を盗み見”するような気持ちになったが、押し付けられたのだから事情ぐらい知ってもいいだろうという気になる。
しかしそれは、山崎が思っていたような色っぽいものではなく、花屋のメッセージカードに数種類の花の名前が書いてあるだけだ。
女性から貰ったにしては素っ気無いソレに、福引で貰ったのは本当かもしれない、と思いつつ、コレをどう処分しようかと考えた。
あいにく男ばかりの真選組屯所では、黄色の花束なんて掃き溜めに鶴…猫に小判…そんな感じだ。
『こんなの似合いそうなのは副長ぐら……』
そう思いついて、もう一度カードに目をやる。
何かと土方の下で行動することが多い山崎は、土方と銀時の関係に気付いていた。
恋だの愛だのそんな甘い物は欠片も見えない二人だったが、山崎はずっと近くにいるからこそ察知したことがある。
その上で、銀時からの何かのメッセージなのだろうかと余計な勘繰りをして、念のために携帯で花言葉を探してみるのだった。
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