原作設定(補完)
□その12
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#115 2015/08/15
ある日の万事屋では、不穏な空気が流れていた。
新八と神楽が出かけているため在宅中の人間は銀時一人だったが、空気を不穏にしている相手は電話の向こう。
「またかよ」
『悪い』
今日は久し振りのデートの日だったが、電話を取った瞬間に嫌な予感がして、案の定デートのキャンセルが告げられたのだ。
「もう一月も会ってないんですけど」
『分かってる』
「だったら、いつまで銀さんの息子を一人で遊ばせとく気ですか。引きこもりになっちゃうよ」
『他の奴と遊んだらいいだろう』
拗ねた口調で不満を言ってみたら、土方からはとんでもない返事が出てきて銀時の額に血管が浮かんだ。
文句も言うし拗ねもするが土方の仕事はちゃんと理解していて譲歩しているつもりなので、そんなことを言われるとさすがの銀時もむかつく。
「本気で言ってやがるんですかコノヤロー」
『本気で言ってるわけねーだろ。他の奴と遊んだら絶交だって息子に言っとけ』
イラついた銀時の言葉に、土方はそう返して電話は切れた。
受話器を握り締めたままそれを反芻し、
「…絶交……ぶふっ」
緩みきった顔で笑いながら受話器を置くと、
「絶交だってよ。しょうがないから我慢すっか」
と息子に話かける銀時だった。
翌日、午後の万事屋に鳴り響くチャイムに、『久し振りの依頼か!?』と新八が勇んで応対に出ると、そこ立っていたのは隊服姿の沖田一人。
案内されて部屋に入ってきて、銀時たち3人が注目しているのは沖田…の後ろに隠れるように見えている小さな子供だった。
身長は沖田の半分よりちょっと大きいぐらいで、年は7〜8歳というところだろうか。
「……なに、ソレ」
そう聞かれて沖田がさっと横にずれると、丸見えになった子供が驚いた顔をしたあと、モジモジと恥ずかしそうに視線を落とす。
その容姿と様子は、
「うわぁ、可愛い子ですねっ」
新八がそう声を上げてしまうほど可愛らしい。
「誰の隠し子アルか」
「近藤さんでぃ」
「なんだとぉぉぉぉ!?あのゴリラ、子持ちのくせに姉上に求婚するなんてぇぇ!!」
神楽が冗談で聞いたことに、沖田があっさりと白状し、それが新八の逆鱗に触れ危うく近藤に不名誉(ある意味名誉?)な称号が付こうとしたとき、しれっとした顔で沖田が言う。
「…な〜んてのは嘘でぃ」
「…………ですよね」
「じゃあ、誰の子アルか?」
「実は……」
「土方」
あっさり納得した新八たちに、新たに沸いた疑問に沖田がもったいぶって答えようとするが、ずっと黙っていた家主がポツリと言った。
「え?」
「土方だろ」
「ええ〜、まさかっ、だってすごい可愛い子ですよ」
銀時の言葉に新八が半笑いで改めて子供を見る。
服装から男の子だというのは分かるが、目の大きい可愛い顔立ちをしていた。
新八にとって土方は、確かにイケメンかもしれないがいつも不機嫌そうな顔をしている口と態度が悪い人、であったため信じられなかったが、銀時は、
「だから、そっくりだろ」
なんて自信満々に反論してくれる。
“……つまり銀さん(銀ちゃん、旦那)には土方さん(マヨラ)がこういうふうに見えてる、と……”
3人が銀時の恥ずかしい妄信ぶりに恥ずかしくなったり気持ち悪くなったりしていると、ずっと黙っていた子供が持っていた荷物を振りかざし、
「は、恥ずかしいこと抜かしてんじゃねぇぇぇぇええ!!」
そう叫んでそれを銀時に向かって投げつけた。
子供の力で投げたものなので銀時は難なくキャッチすることができたが、注目すべきはその点ではなく、真っ赤になって険しい顔をしている子供のほう。
「……え?なんか聞き覚えのある言い回し……」
「本人でさぁ」
「ええぇぇぇぇええ!?」
ばれたなら仕方ねぇという態度でふんぞり返っている子供は、そう聞いてよく見てみたら確かに土方に似ている。
土方にもこんな可愛い子供時代があったんだなぁ、と新八が失礼なことを考えてたりしてる中、沖田が事情を説明していた。
超省略すると、部下を数名連れて攘夷志士のアジトに侵入した土方は正体不明の薬品を吸ってしまい、こうなってしまったらしい。
「で?」
「土方さんをしばらくここで預かって欲しいんでさぁ」
「えええっ、なんでですかっ?」
「土方さんが重体で屯所に運びこまれてるって情報を流し、それを狙った志士を一網打尽にしようって作戦なんでさぁ」
「でも、屯所に子供がいる不自然さはともかく、土方さんだとは気付かれないんじゃないですか?ここで預からなくても…」
新八が至極もっともな事を聞き返すと、沖田はいつになく真面目な顔で答える。
「危険な場所に土方さんを置いておくわけにはいかねーんでぃ」
「…総悟…」
大事な作戦から追い出されたと不機嫌だった土方も、沖田の言葉に少しじーんときているようだったが、
「本音は?」
「こんなガキでも副長扱いしなくちゃいけねーんで邪魔なんでさ……あ」
銀時の誘導につられてつい答えてしまった本音のほうが沖田らしくて、逆に信用できた。
「じゃ、これはとりあえずの依頼料でさぁ。くれぐれも、そこのクソチャイナに蹴られて死んだり、バカでかい犬に踏まれて死んだり、腐ったもの食べて死んだりしないよう、土方さんをよろしくお願い頼みまさぁ」
「総悟ぉぉ!!」
迫力のない子供の声で怒鳴る土方を無視して、沖田は帰って行った。
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