原作設定(補完)

□その12
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#114  2015/08/13


突然ですが、気になるヤツがいます。

あいつを思い出すとドキドキして胸が苦しくなるんです。なんですか、これ。

いや、俺もいい大人だし?これが何なのか、なんてのは分かってるんです。

問題は相手だからね。

目を閉じると浮かぶ……細い体にかっちりとした制服を着込み、Vの字の前髪の下から覗く瞳は虫なら殺せそうなぐらい厳しく、煙草を咥え懐にはマヨネーズを忍び込ませた男、真選組副長・土方十四郎。

ありえなくね?

俺を見る目はいつでも険しいのに、俺以外(ゴリとかゴリとかゴリとか)に見せる笑顔でやられました。

人に向けられた笑顔を思い出してきゅんとしちゃうとか、どんだけ中2くさいんですか、俺は。

しかも、それが俺に向けられるってことがないことぐらい、ちゃんと分かってるんです。

努力すればいつか手に入る、なんて生易しいもんじゃねーし?あいつが俺を……なんて無理無理。

だから、ちゃんと、きっぱり、諦めようと思ってんですよコノヤロー。




かぶき町町内、銀時は前方の人混みの間から、チラチラと見慣れた姿を見つけて眉を寄せる。

前述のように、土方への片想いを諦めよう決意したばかりの自分と、ちょっとぐらいはいいんじゃね?と揺らぐ自分に、反応が少し遅れてしまった。

やっぱりダメだと踵を返したとき、襟首をガッと捕まれる。

「てめー、なに逃げてんだ」

「……逃げてません。気のせいですぅ」

土方の目には銀時が挙動不審な動きをした怪しい人間として写ってしまったらしい。

銀時のいつもの調子で言い返すのが余計に感に触ってしまったようで、不機嫌な顔で不穏なことを言い出した。

「総悟、連行しろ」

「へ〜い」

「はぁぁぁ!?ちょっ、待てやぁぁ!!」

ドS王子の目に止まらぬ早業で、縄でぐるぐる巻きにされた銀時は屯所まで引きずられて行くのだった。




屯所の取調室、30分も経過しないうちに土方の不機嫌はMAXになりつつあった。

「……てめー、いい加減にしろよ(怒)」

「だから、何もしてねーって」

どんなに脅しても空かしても、銀時が適当な返事しかしないからだ。

出会った当初から銀時はそんな感じだった。

しかし、ふざけた態度でのらりくらりとムカつく反応を見せるくせに、まったく土方を見ようとしない点には不審さを感じる。

以前はもっと食ってかかってきていたのに、疚しいことがあるから素っ気無くなっているのではないか。

土方が敏腕警察の勘で何かを察してはいたが、銀時の思惑とはかけ離れていて我慢できなくなった。

「……あのさ、俺なんかに二人がかりの必要なくね?真選組は忙しいんでしょ。……えっと、沖田くんだけでいいじゃん」

さりげなさを装ってそう提案してみたのだが、銀時の狙いに気付けない土方ではない。

自分を遠ざけようとしている銀時に、土方はさらに詰め寄ってくる。

「……あぁ!?俺がいたら具合悪いってーのか?なにたくらんでやがんだ!」

「企んでませんんん。銀さんの優しさ……」

そんなに寄られた余計に心臓に悪いと顔を反らしたままの銀時に、とうとう切れた土方が、両手で頬をガッと掴むと、

「てめー、こっち見ろ!!!」

そう叫んで無理矢理自分のほうへ向かせた。

「!!!………っ………」

頬に触れる土方の手、不機嫌な顔だけど熱い視線で自分を見つめる目。

意識しないようにしないようにと努力してきた銀時は、突然のことに自分を制御することができなかった。

たちまちに赤く染まる顔。

「……あ?お前、顔赤いぞ?ホントに具合悪ぃのか?」

「………や、違うから……」

心配になるほどだったのか急に優しげな声をかける土方に、銀時はうろたえている。

その2人の様子を客観的に見ていた沖田には、銀時の中2くさい初心な気持ちが伝わってしまったようだ。

「………旦那ぁ…もしかして、土方さんのことが好きなんですかィ?」

ズバリとそう言ってくれたりした。

「はあ?何言い出してんだ、総悟」

「……っ……」

両頬を掴んだままだった手が更に熱くなり、土方もさすがに笑えない事実を意識したらしくバッと手を離す。

まんまと赤面してしまった銀時は、落ち着かないままに顔を反らした。

甘酸っぱい空気に、本来なら見てるほうまで赤くなってしまったりするのだが、相手がいい年の男同士となるとそうもいかない。

沖田は懐から携帯を取り出し、
「はい、沖田でぃ……わかりやした、すぐ戻ります。……近藤さんに呼ばれたんで俺は行きやす。あとはよろしく」

そう言ってさささっとものすごい速さで部屋を出て行った。

素早さに呆気にとられてしまったが、

「待てぇぇ!いま着信鳴ってねえだろうがぁあ!!」

と気付いて叫んでみても遅い。

2人きりの部屋に、微妙な空気が流れた。

「………………」

「……総悟の冗談だよな」

そう思い込みたい土方の願いを、笑って肯定してやるほど銀時にも余裕が無かった。

どうにでもなれという自棄もやったのかもしれない。

「……だから顔合わせねーようにしてたのに……てめーらが人の話をきかねーからだろうが」

銀時が否定しないことで、沖田の言葉が土方に圧し掛かってくる。

その上で、土方は自分にも疑問が沸いていた。

どうして気持ち悪いと思っていないんだろう、と。

男に本気で好きだと意思表示されて、普通だったら「気持ち悪ぃ!!」と拒絶して無視すればいいだけなのに、何か言ってやらないといけないような気持ちだった。


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