原作設定(補完)

□その12
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#112  2015/08/08


「お前が好きだ」

そう言ったら万事屋は驚いた顔をしてから、いつものムカつく顔で言った。

「それ俺のセリフなんですけど?」

絶対に通じるはずがないと思っていた気持ちにうつむく俺の、頭をぽんぽんと叩きながらニヤニヤ笑う万事屋は嬉しそうだった。

それから、2人で酒を飲んだり、映画を見たり、ただぼけーっとしてみたり、肌を重ねたり。

胸の奥がくすぐったくなるような、そんな時間が楽しくて幸せだと思った。




重い瞼を開けると、そこは屯所の木でできた天井ではなく、白いコンクリートの天井が見えた。

「トシっ!?」

「……近藤さん?……」

名前を呼ばれてそちらを向くと、近藤さんが泣きそうな顔で駆け寄ってきた。真選組局長がなんて顔をしてんだ。

「トシぃぃいい!!大丈夫かっ!?俺が分かるかっ!?」

「名前呼んでんだろ。どうしたんだ?」

「お前、任務の時に砲撃を受けて、爆風で吹き飛ばされたときに頭を打ったみてーでな、一週間目ぇ覚まさなかったんだぞっ」

ああ、それはなんとなく覚えてる。すげー痛かったけど……そのまま気を失ったのか。

「……一週間……勘弁してくれ………書類山積みだろうが……」

誰かがやってるはずもなく、どうせ俺の部屋が書類置き場になっているに違いない。

それに万事屋にも会いに行かないと。心配してんだろうな。

「まずそれかよっ(笑) 退院はちゃんと検査した後だからなっ」

「んなもんいらねー。さらに書類が溜まるほうが不安だ」

「ダメダメっ!頭打ってんだから、もうちょっと休む!」

「一週間寝てたんだろ、もうこれ以上寝れねーよ」

「はははは。さすがに寝足りたよな、すっきりした顔してる。良い夢を見てたらしいし」

「……良い夢?……」

「おう。なんかな、脳波計に出るらしいぞ。なんか楽しくて幸せな夢を見てるみてーだってよ」

身体を何か嫌なものが通り過ぎて行った。

夢?楽しくて幸せな……まさか……。

「……近藤さん……万事屋、来たか?……」

「万事屋?見舞いにか?来ねーだろ、アイツは」

会えば喧嘩ばかりしていた俺たちを知る近藤さんは、ありえないという顔をして言った。

俺たちが付き合ってることは誰にも言っていない。だからアレが現実なのかどうか、答えては貰えない。

「ほらほら、とりあえず横になる!検査は頼んでおくから、抜け出してきたら切腹だぞ!(笑)」

近藤さんにベッドに突っ込まれて、とりあえず素直に従うことにした。

胸がざわついて、やっぱり眠れそうになかった。




翌朝、検査の結果が問題無しと言われた俺は、誰かが迎えに来る前に病院を出た。誰かと一緒では会いに行けないからだ。

そのままかぶき町へ向かう。

確かめたい。万事屋本人に会わなければ確かめることができない。

急ぎ足で万事屋の家に向かう途中で、不安なんか吹き飛ぶ声がかけられる。

「あれぇ、どっかで見た顔だな、コレぇ」

振り返ると万事屋が立っていて、嬉しいと思っている自分の気持ちに間違いはなく、確かめたいのは万事屋の気持ちだ。

「……万事屋……」

詰まりそうになりながら声を出した俺に、万事屋は思い描いたものとは違う笑みを浮かべた。

まだ出会ったばかりでお互いが気に入らない存在だといがみ合っていたときのような。

「生きてんじゃん。入院中って聞いたけど?」

「………生きてちゃ悪ぃか」

「ま、地獄じゃ鬼も定員オーバーで迷惑だよなぁ」

違う。これは俺の“知ってる”万事屋じゃない。

付き合ってることをバレないように他のやつ等が居るところでは喧嘩口調でも、2人きりのときは、始終嬉しそうで……優しかった。

こんなことを俺に言うはずがない。じゃあ、やっぱりアレは全部夢なんだ。

あんなに胸にいっぱい詰まっていた暖かいものが、全て霧のように消えていく。

「…どした?まだ具合悪ぃのか?」

「………うるせー、ほっとけ」

これ以上辛い思いをしたくなくて、俺はその場を逃げるように離れた。



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