原作設定(補完)

□その11
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少し前、風呂に入ろうとした土方は、

「……タオルがねーな……」

土方用に小さく切った布を用意してもらっているのだが、新八に取ってもらうのを忘れていた。

脱ぎかけたシャツをもう一度着て、ちょっと開いたままの隙間から外へ出るとリビングへ向かう。

着替えも欲しいよな、なんて思いながら戻ると、銀時と新八の会話をばっちりはっきりくっきり聞いてしまった。

「土方さんが小さいままじゃ、銀さんだってつまらないでしょう。早く元に戻してイチャイチャ(嫌味)したらいいじゃないですか」

「元に戻したら帰っちゃうだろーがっ」

「だから、始めからこんな嘘付かなきゃ良かったんですよ」

新八が呆れた溜め息をついたとき、二人はゾクッと寒気を感じて慌てて振り返る。

そこには怒りオーラを漂わせた原寸大の土方が立っていた。もちろん今だ小さいままなのだが、精神力の大きさと、2人の恐怖感が土方を大きく見せていたのかもしれない。

「お、おお、多串くんっ!」

「…今、なんつった……」

「おお、落ち着いてくださいっ、銀さんに悪気は……」

「てめーらっ、いったい俺に何しやがったぁぁああ!!!」

強大な土方のスピリチュアルアタックの前に、ぱくぱくと口を開閉するしかない2人だった。



30分後。

源内の作業場から出てきた土方は、“4日”ぶりに本来の姿に戻っていた。

ちらりと部屋を見ると、巨大なハンマーを持ったカラクリが立っている。あれに殴られて小さくなったらしい。

土方が出てくる前から地面に土下座をしていた2人は、怯えながら説明した。

「先日たまさん救出のためにこの打出の大槌Z503型を使った銀さんが、仕事仕事仕事で会えない土方さんを小さくして閉じ込めておけばずっと一緒にいられるな、てへぺろっ、とか言い出しまして、いけないことだと分かっていたんですけど社長の命令には逆らえず…。でも、カレンダーはめくっただけなんでまだ四日目ですし、神楽ちゃんは嘘がつけないから、知ってるのは銀さんと無理矢理従わされた僕だけなんで…」

「てめっ、何全部人のせいにしようとしてんですかコノヤローっ!!」

「全部まるっとあんたのせいだろうがぁぁああ!!」

「や、でもね、すぐに戻すつもりだったんだよ。だけど、なんか楽しくなっちゃって、てへぺろ〜」

「つーか、てへぺろ、も古いですよ」

「お前に言われたくねーんだよ、万年ダメガネがぁぁ!!」

「なんだとぉぉ、メガネは関係ねー………………あれ?」

喧嘩を始めてしまった二人が気が付くと、そこに土方の姿はなかった。

てっきり正しく鬼のように怒られると思っていたのだが、何も言わないまま出て行ってしまった。

『も……もしかして……本気で怒ってるぅぅうううう!!?』

銀時が慌てて飛び出してきて、屯所へ向かう土方を呼び止めた。

「多串くんっ、あのっ、そのっ」

振り返らない背中。

ようやく元に戻ったのに、触れることができなくなるのかもしれないと思った銀時は、いつもののらりくらりとした言い訳ではなく素直な謝罪を口にする。

「……ホントに悪かった……俺はっ」

ぎゅっと手のひらを握り締め目を堅く瞑った銀時に、暖かいものが身体を包み込む。

振り返った土方が銀時を抱き締めていた。

「……やりかたはろくでもねーけど……楽しかったから今回は許してやる」

そして驚いている銀時から身体を離し、怖さ6割減、可愛さ4割増しで睨みつけ、

「二度目はねーぞ」

そう言ってやる。

「多串くんっ」

そんな顔されたら辛抱できるわけねぇだろうがぁぁあああ!!と抱きつこうとした銀時の腕はさっとかわされてしまった。

「あれ?」

「帰る」

「ええっ、せっかく元に戻ったのにっ」

再度真選組に向かって歩き出そうとする土方を、銀時が慌てて追いかけてくる。

が、許しはしたもののせめてもの仕返しとして、振り返って銀時の唇に軽くキスをし、

「真選組が心配なんだよ。次の非番までおとなしく待ってろ」

ツレナイことを言って土方は本当に帰ってしまった。

残された銀さん。こんな真昼間の誰が通るとも限らない道で土方からの初めてのちゅーに心臓鷲づかみ。

おとなしく待つしかないのであった。



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