原作設定(補完)
□その11
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もやもやしたまま万事屋に帰ってきた銀時は、ちらりと時計を見てから受話器を取る。当然、相手は土方だ。
数回のコールの後、土方は電話には出たが、
“…なんだ…”
その声はやはり冷たい。周りに誰か居るんだとしても、相手が銀時だとバレてない限りは普通でいいのに、だ。
「…よう……あ〜……その、身体、大丈夫か?」
土方の様子がおかしい理由を考えてみたのだが、照れ隠しでなければ、“初めて”だったはずの身体が辛いのかもしれないと浮かんだ。
こんなことを聞くのも聞かれるのも恥ずかしいと思ったのだが、しかし土方の返事は落ち着いている。
“なにが”
「な、にが……って、その……辛かったんじゃねーのかなーって」
“あ?”
「だから……一昨日の夜のこと……その…」
はっきり言えない自分が恥ずかしくなってきた銀時に、
“さっきから何言ってんだ。てめーに心配されるようなことは何もねーよ”
そうきっぱりと言い返され、銀時の頭には疑問符が浮かぶ。様子どころか話がおかしい。
「あ?………あの、土方?」
“なんだよ”
「えっと……一昨日、一緒に飲んで、そのあと…泊まったじゃん?」
“ああ?なんでてめーと飲んだり、泊まったりしなくちゃならねーんだ。寝言は寝て言え”
吐き捨てるようにそう言って電話は切れ、ツーツーと音を聞きたまま銀時は凍りついた。
『えええぇぇええええ!!?』
素っ気無いどころか、まさかの全否定。
『あれ?何ですかコレ。どうなってんですかコレ。一緒に飲んだよね?泊まったよね?やったよね?土方可愛いぃぃって思ったのは夢じゃないよね?……俺達、付き合ってんだよねぇぇええ??』
どっと汗をかきながら思考が暴走していると、
「銀さん、僕そろそろ帰り……」
新八が台所からひょっこり顔をだしたので、銀時は立ち上がって問いかけようとした。
「新八っ!!俺と土方……(ハッ)」
「土方さんがどうかしたんですか?」
新八が答えられるわけがない。土方と付き合ってたことは誰にも言ってないのだから。
「……なんでもねー……」
「?? じゃあ、僕帰りますね」
「おー…お疲れ…」
もう一度椅子に座り、疑惑と不安と絶望に、再び全身から汗があふれ出す。
銀時が実際にあったことだと思っていることが、誰にも確かめられず、本人にも否定されてしまったら、それは現実じゃないかもしれないことに。
そして、そんなことあるわけないと思えるほど、自分の記憶力に自信のないことに。
その日の夜、銀時が居たのは真選組屯所と最寄のコンビニの間の歩道だった。
土方はデスクワークが片付いたあとに、気晴らしと煙草の補充にコンビニへ出かけることを聞いていたからだが、屯所の近くで他の隊士たちに見つかる可能性が高いと待ち合わせたことはない。
屯所のほうから私服でやってきた土方は、銀時の姿をチラリと見てそのまま通り過ぎようとした。
電話の後からずっと全部夢だったのかもれないと悩んでみたが、やはりそうではないようだ。
全部夢で、土方とは何の関係もない犬猿の二人だったとしたら、こんな時間にこんな場所にいる銀時に何も言わないのは逆に不自然だ。
「土方」
通り過ぎた背中に呼びかけると、振り向かずに足を止めた。
「なんだよ」
その背中が寂しそうに見えるのは夜だからだろうか。
「なんで無視すんの?」
「んなの、興味ねーからに決まってんだろーが」
そう言った土方の肩を掴み、銀時は自分のほうへ向かせると着物の襟を崩して首もとの肌を露わにする。
そこには一昨日の夜、愛しさのあまりに残した痕がいくつも散らばっていた。やっぱり夢じゃない。
「……なんで、無視すんの?」
もう一度問いかけたが、土方は口を結んだまま答えようとしない。
夢じゃないなら、全てをなかったことにしようとする理由なんて他になかった。
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