原作設定(補完)

□その11
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翌朝。

土方は最悪の気分で目が覚めた。胸はむかむかするし、それにすごい頭痛がしてる。

「な……んだぁ?」

「よう、目が覚めたか、酔っ払い」

「……万事屋?……」

呆れた顔で自分を見下ろす銀時に、ようやくここが万事屋の和室であることを知った。

「な、なんで……」

「……やっぱり覚えてねーじゃねーか……」

真選組の智将とはいえ酒には勝てないらしい。銀時は残念なようなホッとしたような複雑な気持ちだった。

「あ?」

「昨日副長さんはぐでんぐでんに酔っ払って夜中にここへ強制的に入り込み、俺の布団を徴集してぐーぐー寝腐りやがったんですよコノヤロー」

「……酔って?………あ………」

どうやら酔っ払った状況までは覚えているようだ。

「ずっと摘めてた仕事が終わってそのままみんなで飲んだんだ」

疲れのせいかすぐに酔いが回って記憶が無くなった。そのあとのことは、たぶん銀時が言ったとおりなのだろうと思う。

「……悪い……」

「別にぃ、宿屋・銀ちゃんを営業していたと思えば謝る必要はねーよ」

つまり宿代(金)を払えという意味らしいので、土方は黙って懐から財布を取り出すと諭吉を一枚取り出して銀時に渡した。

「まいど♪ 今日は特別サービスで朝食付きですよ」

「……いらね……」

「酔い覚ましに味噌汁ぐらい飲めよ」

そう言って銀時は部屋を出て行ったので、土方は痛む頭を押さえながらフラフラと立ち上がる。

ソファに座り、出された味噌汁を飲みながら、向かいで神楽がもっさもっさと酢昆布を食べていることに眉を寄せた。

「……朝からなんてもん食ってんだ」

「口止め料アル」

「?」

味噌汁を飲み終わる頃には少し気分も良くなってきたが、おそらく醜態を晒した上に、酷い頭痛と、金まで払ったのだから、『酒はしばらくやめよう』と心に誓う土方だった。

そしてそれは、屯所に戻ってから『酒は永遠にやめよう』に変更されることになる。






銀時の味噌汁のおかげで、一人で歩いて屯所に戻れるぐらいには回復した土方だが、それでもぐったり疲れた顔で屯所に戻ってきた。

昨夜一緒に飲んでいたのにいつの間にか居なくなった土方を、みんなが心配していたのではないかと思ったがそんなことはなかった。

「副長、おかえりなさい」

「…お、おう…」

何も言われない理由は最悪の人物から告げられる。

「土方さん、旦那は元気でしたかぃ」

副長室へ戻ろうとする土方に沖田が声をかけた。何か楽しいことを抱えているドSの微笑みで。

「……てめー……俺の後を着けてたのか……」

「んな面倒なことしてませんでさぁ」

「じゃあなんで俺の行先を知ってんだ」

沖田がにやりと笑ったので、土方の背筋がゾクリと寒くなった。

「土方さ〜ん。アンタ、昨日、敵の本拠地に潜入してたの忘れたんですかぃ。そのまま飲みに行ったですよねぇ」

「……あ?…………………あ!!」

昨日は真選組がずっとマークしていた過激派攘夷党の検挙と、それに協力していた有力者の割り出しのために副長自ら数名の隊士を連れて敵の本拠地に潜入していた。

そこで証拠を掴んだからこそ一斉逮捕となったわけだが、そのために土方たちにはあるものが付けられていたのだ。

土方は私服の襟元をぐいっと手前に引き、そこにまだ“隠しマイク”が付いているのを確認して青ざめる。

沖田がこんなことを言い出したからには、自分が思っている以上の失態を犯しているということだ。

「そ、総悟っ、てめっ………な、何を聞いた……」

「自分で確かめたらどうです?」

そう言って沖田が取り出した一枚のディスク。つまり録音していたということなのだろう。

土方がそれに手を伸ばすが、沖田はサッと避けてしまう。

「……何が欲しい……」

「今月はちょいとピンチなんでさぁ」

沖田の憎たらしい笑みと共に、土方の財布から諭吉が三人消えた。


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