原作設定(補完)
□その11
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#109 2015/08/04
爆音と地鳴り、そして怒鳴り声。
「ごほっ…けほっ…………(怒)……総悟ぉぉおおお!!このガキャァァ!!」
バズーカ片手に逃げる沖田と、追いかける真っ黒焦げの土方。
真選組の朝の恒例となりつつある風景だったが、いつもなら局長室まで逃げ込んで近藤を盾にする沖田が、足を止めて振り返る。
急には止まれない土方が驚いている隙に、ぽいっと口の中に何かを放り込まれた……のは分かっていたのに、つい飲み込んでしまった。
「な……何を食わせた!?」
「飴でさぁ。怒鳴ってばかりだと喉を痛めますぜぃ」
「誰が怒鳴らせてると………っ!!?」
体内から湧き上がる感情に、土方は思わず口を押さえて息を飲んだ。
午後のかぶき町で真選組の出動に出くわした銀時は、軽い足取りで現場の中心にいる土方のところへ近づいてみた。
「よう」
「…おう」
いつもならなんだかんだと怒鳴り散らしているはずの土方が、今日は暇そうにしているなぁと思ったら、隊士たちがやたらキビキビと熱心に働いているのが分かる。
「なんか張り切ってんね」
「……まあな」
実は沖田に飲まされた飴には恐ろしい効力があって、隊士たちはそれが怖くて怒られないように働いているのだが、それは説明できない。
「? 今日の夜、空く?呑みに行かね?」
「………わかった」
少し悩んだが土方は頷くしかなかった。
銀時とはいつの間にか一緒に酒を飲んだり、映画を見たり、サウナに行ったり、あまつさえ寝たりする関係になっていた。
何故そんなことを許すのか。
自分に問いただした結果、銀時のことが好きなんだと土方は自覚していたが、銀時の気持ちは分からない。
「俺が好きか?」
なんて死んでも聞けないし、分かりきった答えも怖くて聞けない。
だから銀時が気まぐれに誘いをかけてくるのを断るはずがなかった。
夜、最近出来たばかりの居酒屋で落ち合うことにした銀時は、先に到着して店に入った。
「へい、いらっしゃいっ!一名様ですかっ?」
「後から一人来る」
「2名様ご案内〜っ」
「は〜……銀さぁぁあああんっ!!」
「げっ、さっちゃ……」
姿を確認したときにはすでに腕にしがみつかれていた。相手はなにせ忍者であるから、一瞬のことだ。
「銀さんっ!私に会いに来てくれたのねっ!今日が初出勤だったのに、私のことは何でもお見通しねっ」
「知らねーから、偶然だから」
「偶然!だったらなおさら運命的じゃないのっ!もう結婚するしかないわねぇぇ!」
「なんでそうなるんだぁぁ!!」
その頃、店の前では土方が深呼吸。
『大丈夫だ。怒らなきゃいいんだ。落ち着いて飲めばそうそう怒るようなことなんてねーし』
総悟に飲まされた飴の効力を心配するが、それを抑えてでも銀時に会いたい。
深く息を吐いて、いざっ、と気合を入れて店の中に入るが、
「大丈夫よ、さっちゃんいつでも準備万端よ。仕事も辞めるし、結婚式のドレスだって用意してるし、妊活のためにアレもアレも買ってあるんだらっ」
「結っ……妊っ…………おまえねぇ」
全然話の通じない思い込みの激しいさっちゃんに頭を抱えている銀時が、入り口に暗い影が立ち上っているのに気が付いた。
「あ……ひじ…」
「てめー、何して……!!」
自分との待ち合わせの場所で女とイチャイチャしている(ように見えた)銀時に、一瞬にして頭に血が上ってしまう。
しまった!と思ったが手遅れだった。
うっと口元を押さえ、
「土方?」
さっちゃんを腕にぶらさげたまま心配そうに近づいてくる銀時に、顔を上げた土方の目からは大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちていた。
「ひ、ひひ、土方くぅん!?」
“怒りがそのまま悲しみへと変換されてしまう効力”により涙は止まらず、
「もういい。お前はそいつと幸せに暮らせよ」
搾り出したセリフは、怒ってる時と同じセリフでも数十倍重い意味になってしまった。
“恋人の浮気現場に遭遇してしまった彼氏”のようなシチュに辺りの客は息を飲むが、飛び出して行った土方を追いかける銀時に、『え?そっち?』と呆然とする。
しかも残された女は、
「猿飛さ〜ん、仕事してよ〜」
「はぁ〜い」
と全然懲りてなさそうに仕事へ戻って行った。
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