原作設定(補完)
□その11
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#104 2015/07/30
「…キス…してくれねーか…」
そんなセリフが聞こえて、銀時は万事屋のデスクで読んでいたジャンプから視線を上げた。
その先には、30分前急にやってきたきりソファに座って何も言わない土方が居る。
暇なのでジャンプを読んでいたのだが、顔を上げても土方は前を向いたままだ。
他に誰もいないし、テレビも点いていない。となると……
「…電話鳴ったんじゃね?」
「あ?」
「トッシーが設定したんじゃねーの?アニメキャラの声で“電話だよ”みてーな」
「着信ボイスじゃねーよっ!」
そう怒鳴ってようやくこっちを見た土方。そうなると先ほどのセリフの発信源はもう1つしかない。
「…じゃ、今の、お前が言ったの?」
「……っ……」
もうずっと土方は悩んでいた。
この死んだ魚のような目をした適当でいい加減でだらしない男が気になり、会えば喧嘩になるのに嬉しくて、目の前で困ってるヤツを放っておけない意外性で助けた女が周りをウロチョロしてるのにイラついて。
それがどんな意味を成すのか、自分にとってのこの男が何なのか、確かめたくて万事屋に来たのだ。
『キスしたら分かるかもしれない』
そんな安直な手段を口にするのに30分もかかってしまったのに、あっさりスカされてツッコまれて……
顔を真っ赤にして言葉に詰まってしまう土方に、銀時はいつもどおりのしれっとした顔で聞いた。
「なんの冗談?それとも、罰ゲームかなんか?」
『それだ!』
言い訳を必死に考えていた土方は、銀時の言葉に乗っかることにした。
「そ、そうだよっ、総悟の奴が悪ふざけしやがって、してこねーと一ヶ月厠掃除だって言うから仕方なく……」
「相変わらずエグイこと考えるよね、おたくのドS王子。ま、別にいいんだけどさ」
あっさりそう言って銀時は椅子から立ち上がり、ソファの土方のところまでやって来ると隣に座った。
必死に顔に出さないようにしていたが、土方の心臓は爆発寸前まで稼働中。
『あわばばばば』(否トッシー:笑)
緊張で強張る土方を見つめ、銀時はしらけた顔で首を傾げる。
「……んー……なんか、のらないな」
「あ?」
「…その隊服が悪いのかも。脱いでくんない?あ、ベストもな」
「……」
素直に脱ぐ土方。
「スカーフも固いな」
やっぱり素直に取る土方。
「んでシャツ出して、襟元緩めて、ちょっと身ぃ乗り出してみて」
言われるままやってみる土方。
そこまでやったのに、じぃっと見つめてから、
「……んー……まだなんか足りないなぁ」
なんて言い出す銀時に、さすがに土方を眉を寄せた。
銀時にとっては罰ゲームへの協力にすぎなくても、土方には真剣に悩んだ上での行動なのに。
「…てめぇ…」
「あ、そうだ」
何か閃いたらしい銀時は、立ち上がると隣の部屋からカツラを持って来た。
「これ被ってみてよ」
「なっ……なんでそんなもん…」
「このあいだここで宴会やってさ、隠し芸のオネエネタをやったヤツがいて……ほら、けっこう似合うじゃん」
黒色の長髪のカツラは土方に良く似合っていて、銀時が感心したような顔をする。
昔長かったこともあるので土方に嫌悪感はなかったが、反らそうとするアゴを止められ、
「…っ…」
「土方くん、イケメンだし、このままでも良いけど…」
そう言って取り出したの口紅のようなもの。
「…やめっ…」
「大丈夫、ただの色つきリップだから」
赤ワインの色に近いそれを土方の唇に滑らせる。
「…ほら、かわいい。ちゃんと女に見えるじゃん」
銀時の言葉に嘘はなく、顔だけ見れば知らない人が見ても女とは疑われないほどだった。
だが、それを喜べるはずがない。
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