原作設定(補完)

□その11
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#102  2015/07/21


夜中のかぶき町を、土方十四郎は一人で歩いていた。

隊服に身を包み辺りを警戒しながら、市中見廻りの夜間当番の仕事をしているのだが、二人一組が規則のはずが彼は一人だった。

「……ちっ……総悟のやつ……どこ行きやがった」

一緒に出てきたはずの沖田が暗闇にまぎれていつの間にか居なくなり、怪しいヤツを探しているのか沖田を探しているのかだんだん分からなくなってきてしまう。

どうせ先に帰ってるに違いないと、一通りの見廻りを終えた土方は屯所に戻ることにした。

まだ開いてる店も多い夜の町・かぶき町。この見慣れた町並みを見ていると胸が騒ぐ。

屯所からある場所までを往復するようになって1年近くが経過していたが、それもここ三週間ばかり途切れていた。

非番が中止になったり代休もうまく取れなかったり、そういうときに限って町で偶然に会うこともなく、電話をしてもほとんど話せない。

こんな近くにいるのに遠距離恋愛みたいだな、といつか言われたことを思い出す。

「…しょーがねーだろ……俺だって……」

地面に視線を落としながらそう呟いた土方は、その気配に気付くのが遅れた。

腰に差した剣に手をかけ顔を上げたとき、塀と塀に挟まれた路地の暗闇から人ではない何か大きな塊が自分に向かってくるところだった。

「…っ!!…」

避けられない。

一瞬にして死を悟り、近藤や沖田や真選組の連中の顔が頭をよぎり、そして、会いたくて仕方ない白い姿が視界の隅に見えた気がした。





太陽の日差しと食べ物の匂いで目を覚ました土方は、見ている風景を認識することができず身動きもできずにいた。

『………頭痛ぇ……』

それが原因でおかしな物が見えるのだろうかと考えていると、

「気ぃ付いたか?」

そう言われて声のしたほうを見つめるが、やっぱり動けない。

『ああ、やっぱりどっかおかしいんだ。夢か?だよな、夢なら…』

「おーい、夢じゃねーぞ。お前の大好きな銀さんだし、ここは万事屋だから」

目を何度かパチクリとさせ、土方はようやく身体を起す。そして改めて辺りを見回し、

「………んだこりゃぁぁぁああああ!!!」

力いっぱいそう叫んでしまったので、また頭痛がしてそれを片手で押さえこんだ。

土方の認識力は間違ってはいなかった。目が覚めたときからここが万事屋だと分かったし、銀時の声も姿も見間違いようがない。

ただ、何もかもがデカイ。天井もタンスも銀時も、超巨大化してしまっていた。

「いやいや、俺が大きいんじゃねーから。お前が小さいんだから」

心の中を読んでるんじゃないかと思えるほどの的確なツッコミに、土方はもう一度部屋を見る。

『ああ、なるほど。俺以外が大きくなるより、俺だけが小さくなったほうが効率が良い……』

「って、なんでそんなことになってんだぁぁ!!!」

一人でノリツッコミしている土方に、銀時は微妙な顔をしている。

「事故か!?見回りの途中で何かに殴られた気がするっ」

さすが真選組の副長を張るだけのことはある。混乱しながらも、自分の最後の記憶を引き出してきた。

それを含んだこれまでの経緯を、銀時が説明してくれる。

「それは知らねーけど……かぶき町でお前が倒れてるってここに連絡が入ったのが3日前だ。目は覚まさないし病院運んで医者に見せたんだけど、どこも悪いとこがねーって言われたのに、翌朝には元の三分の一ぐらいに縮んでた。大事になると真選組的にマズイんじゃねーかと思って病院からここに連れ出したけど、日に日に縮んでいって……」

天人がやってきてから何でも有の世界になってしまったが、身体が小さくなる症例は聞いたことがない。

「……近藤さん……真選組には?」

「連絡してねーよ。ここに居るなんて言ったら迎えに来るだろうし、迎えに来られねーで済む言い訳が思い浮かばなかった」

「……じゃあ」

「真選組副長は行方不明ってことになってる」

「……そうか……」

原因が分からないうちはそれが最善なのかもしれない。すごく心配しているだろうと思うと胸が苦しいが、万が一元の姿に戻れなかったらあそこには帰れないのだから。

鋼のような精神力で現状を把握し落ち着きを取り戻したところで、自分を見つめている銀時に気付いた。

久し振りに会うのにこんな姿では、抱き締めてもらうこともできない。

3日間、異様な状況に対応してくれてずっと側にいてくれた。気味悪がって放り出してもおかしくないのに。

「……お前は……大丈夫か?……」

「大丈夫じゃないですぅ」

「………」

「んな側に居るのに起きないわ、ちっちゃくなって触れないわ、なんの嫌がらせですかコノヤロー」

拗ねたようにそう言った銀時は、いつもの、何も変わらない銀時で、ようやく土方に笑みがこぼれる。

会えば喧嘩ばかりしていた昔から、一緒に居るだけで、仕事や仕事や仕事でガチガチに固まった心が解れていくのを感じた。

こんなときでさえ、一緒に居れば笑うことが出来る。

銀時から土方に触るには力加減が難しそうだったから、すぐそばに置かれた銀時の手のひらに土方から触れてみた。

土方には手のひらいっぱいに何も変わらない銀時の体温を感じるが、銀時には触れている面積が小さすぎて感触がないのかもしれない。

それでも嬉しそうに笑ってくれた。



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