原作設定(補完)

□その11
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#101  2015/07/20


万事屋のデスクに足を乗せて、坂田銀時はぼんやりしていた。

今日は朝からずっと夕方の今までこの調子で、いつも以上に覇気のない状態に新八が呆れた声で話しかける。

「銀さん!もうちょっとしゃきっとして下さいよっ!今日は神楽ちゃん」

「…あー…」

「もう……朝帰りするほど飲む金があるならちゃんと給料払ってくださいよ〜」

「…んー…」

空返事をする銀時に新八は深い溜め息をつき、

「僕もう帰りますね。お疲れ様です」

「…おー…」

見送る言葉まで気が抜けていて、新八は諦めて帰って行った。

誰も居なくなった部屋で銀時は瞼の裏に浮かぶ昨夜の記憶に、くしゃりと髪をかきあげる。

『…土方…可愛かったなぁ…』

昨晩は、新八が言うように“飲みに行ってそのまま朝まで飲んでいた”わけではなく、土方と一緒だった。

“喧嘩するほど仲が良い”というよく使われる言葉を実行していた2人は、いつの間にかみんなには内緒で付き合うようになっていた。

そんな2人が一晩いっしょで「ずっと飲んでました」というわけもなく、つまりまぁそういうことである。

初めてのお泊りを思い出して1日ぼんやりしてしまうなんて、やりたい盛りのガキじゃあるまいし、とは思うのだがどうにも止まらない。

恥ずかしいのを誤魔化すためにツン五割増しの態度や、必死に押さえようとする声、泣きそうに歪む綺麗な顔。

そんな青臭い妄想を続ける自分に、

「うがぁぁぁああ!」

銀時は真っ赤になって叫び声を上げながら頭をもふっていると、目の前の電話が鳴り響いた。

「うわっ!……はぁ………はい、万事屋銀ちゃんです。……あ?なんだよ…仕事の依頼ぃ?」

時計を見るといつのまにか10時近くになっていて、どんだけぼんやりしてんだと自分でも呆れてしまう。

仕事するような気分ではなかったが、今日一日新八にチクチク言われたことを思い出し、小金でも稼いでおいたほうがいいかもしれないとしぶしぶ出かけた。



翌日、おやつの時間の頃に銀時は団子屋に居た。

もちろん団子を食べに来たためであるが、周りに内緒で付き合う2人には偶然会ったフリで顔を見れる大事な時間だった。

土方が市中見廻りに出る日には必ずここに来て、運が良ければ一緒にお茶ができたりする。

一昨日の朝帰りから初めて顔を見るので、なんだかやたら緊張するなと思っていると、

「旦那ぁ、今日も暇そうですねぇ」

のん気な声の沖田に声をかけられる。今日は運が悪い日のようだ。

沖田が一緒では付き合っていることをバレないように、土方は余計に素っ気無くなってしまうのでお茶はとても無理だった。

「毎日仕事してないような言い方止めてもらえますぅ?」

「あれ、違うんですかぃ」

「俺だってやるときゃやるよ………やる機会がないだけで」

「やっぱり暇なんじゃねぇですかぃ」

沖田と不毛な会話を続けながら、銀時は『あれ?』という違和感を感じていた。

前述のとおり土方が素っ気なくなってしまうのはいつものことだが、今日は素っ気無いどころか目も合わせない。

一緒に足は止めたものの、横を向いたまま二人の会話に口を出すこともなく、

「総悟、行くぞ」

そう言って背中を向けた。沖田がブーブー文句を言いながら立ち去ると、銀時の胸にはモヤモヤだけが残される。

照れ隠しではないのは分かる。沖田が一緒だとしても、照れの一欠けらも見せずに隠せるほど土方の演技は上手くない。

演技どころか、まるで付き合う前の、お互いが嫌いだと思っていたころに戻ったようだった。

「??」

そうは思っても今は声をかけるわけにはいかず我慢するしかなかった。



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