原作設定(補完)
□その10
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#93 2015/07/04
週末の夜を酒でも飲んで気分良く過ごしていた人たちの間に、ピリピリした空気が流れていた。
テーブル席の1つで、男が2人、険悪な雰囲気で睨みあっているからだ。
数分前までは、他のみんなと同じように楽しく過ごしてから喧嘩の原因は分からない。
だが片方の男が荒げた声を上げて注意を引いた後の2人の会話から、“ゴリ”、“イチャイチャ”、“仕事”、“放置プレイ”、などの単語が聞き取れて……さらに分からなくなった。
片方の男の声は落ち着いていて、それが余計にもう1人の男の勘に触っているような感じのする中、ガタンッと大きな音を立てて椅子から立ち上がり、
「てめー、もうそのツラ見せんな!!」
そう怒鳴って男は乱暴に店を出て行った。
シーンと静まり返った店内で、興味津々だった人はチラリと残された男を見る。
不機嫌そうな顔をしてテーブルを見つめているがその目には後悔や悲しみが浮かんでいて、その青い春っぽさに胸がきゅんとした者が数名。
男は小さく溜め息を付いて立ち上がると、カウンターの向こうの店主に声をかけた。
「親父、おあいそ」
「あいよ」
会計を済ませたあと店を出ようとする男に、どうやら顔見知りらしい店主が言う。
「銀さん、いつもみたいにさっさと仲直りしちまいないよ」
「……今回はわかんね」
そう答えて小さく笑い男が出て行くのを見送り、店主はやれやれと溜め息をついた。
あれから三週間。
真選組屯所で土方十四郎はイライラと煙草をムダにふかしていた。
久し振りに会えたのに居酒屋で喧嘩して飛び出して来て以来、銀時の姿をまったく見なくなった。
会いに来ないし、町でも会わない。
いつもなら二週間もすると、土方が悪くても銀時から折れてきて仲直りすることができていた。
なのに今回は明らかに銀時が悪いのに何も言ってこない。
『んだよ、アイツ……さっさと謝りに来いよっ』
点けたばかりのタバコを灰皿に押し付ける。
そんな自分にも、そんなことばかり考えて仕事に集中できない自分にも、腹が立っていた。
『てめーが…甘やかすから……俺から会いに行くとかできねーんだよっ』
聞いてくれる相手もいないのに、完全に逆ギレの本音を飲み込む土方だった。
数日後、沖田とかぶき町を見廻り中にも、土方の目が追っているのは白いもふもふの頭ばかり。
なので、
「…土方さん、危ないですぜぃ」
と言った沖田に気付くのが遅れてしまった。
「あ?」
道の端にサッと避けている沖田を疑問に思ってるうちに、土方は背中にものすごい衝撃を受け、油断していたせいもあるがかなり滑稽な格好で地面に吹っ飛んでしまった。
土まみれの顔を上げると目の前に見慣れた足があり、身体を震わせながら土方は怒鳴り声と同時に立ち上がる。
「……このっ………なんのつもりだ、クソチャイナっ!」
「自分の胸に聞くアル!!」
身長も体重もまったく違う大人の男に怒鳴り返した神楽はやけに迫力があって、圧倒されている土方との間に新八がフォローに駆け寄ってきた。
「神楽ちゃん、落ち着いてっ。すみません、土方さん」
「何なんだよっ!」
ニヤニヤして見ている沖田、子供に蹴られて蹴り飛ばされた上に怒られている自分にイラついて、関係ない新八に当たってしまったが申し訳なさそうに答えてくれた。
「それが……銀さんがずっと元気ないっていうか、やる気がないっていうか……ずっと一緒にいる神楽ちゃんが怒っちゃって」
負い目のある名前が出てきたことに土方が動揺すると、それを見逃さない新八に問いかけられる。
「…銀さんと喧嘩でもしたんですか?」
「……別に……」
「銀ちゃんがお前と喧嘩した以外であんなに元気なくなるわけないアル!」
この2人にとっての銀時はずいぶんと惰弱らしい。大の大人である銀時の悩みが土方と喧嘩した以外ないと断言されてしまった。
だが図星だったので土方が何も言えないでいると、沖田が納得したような顔で頷く。
「ああ、だからですかぃ」
「あ?」
「旦那の姿は見かけるのに、なんかコソコソしてるだけで出てこないのは」
「居るのかっ!?」
「今はいやせんね」
「あ、銀さん今日は仕事です」
慌てて見回す土方に、沖田は内心笑いながらとぼけた風に答え、新八がオトした。
そんな2人にもムカつくが、土方の怒りの矛先は銀時に向く。
ずっと会えないことにヤキモキしていた土方に対し、自分だけこっそり顔を見て満足している銀時。
『あのヤロウっ』
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