原作設定(補完)

□その10
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「うぃ〜っす」

小春日和のある日、軽い足取りと軽い口調で屯所の門を潜ろうとした銀時を、門当番をしていた山崎が両手を広げて立ちはだかった。

「あっ!!旦那っ、ダメですっ」

「あ〜?」

「副長が留守のときに旦那を入れるなって言われてるんですよ!」

土方なら言いかねない。

分かっていても素直に従うわけにはいかず、銀時は腰にかけた木刀に手をかけて凄んでみた。

「なんだ〜、やんですか、ジミーのくせに」

「マジな顔で抜かないでくださいよっ、勝てるわけないじゃないっすか!」

「…つーか、なんで門番なんかやってんの?降格?」

「今日当たりそろそろ旦那が来るかもって、副長に命令されたんですよっ」

とことん銀時の生態を熟知しているようだ。どんだけ俺のこと大好きなんだよ、と前向きに思い込むことにしたとき、

「なんでィ、旦那じゃねーですか」

見回りから帰ったらしい沖田が、銀時よりさらにのん気な調子で声をかけてきた。

「総一郎くん」

「総悟です。山崎、旦那は俺の客でィ」

「ええっ。いいんですか〜」

どうやら2人のやりとりを聞いていたらしく、そう言って銀時を屯所の中に連れていく沖田に山崎が困った声を上げるが、土方が嫌がっていることはなんでもやりたい沖田に逆らうことはできない。

玄関ではなく庭に向かいながら、ガサガサと音をたてるコンビニのレジ袋をチラ見した沖田が、

「旦那も趣味が悪い。お土産持って土方さんと職場デートですかィ」

そう言うが、銀時はレジ袋を持ち上げて首を振る。

「あ、違う違う。これは沖田くんに」

「……俺ですかィ」

予想外の答えが返ってきたので、素で驚いている沖田に銀時はにっと笑ってやる。

「多串くんは居る時でも入れてくれると限んねーからさ、そんときは沖田くんにお願いしようと、貢物」

ダメなほうに自信たっぷりの銀時は、めげずにあの手この手を考えて土方の側にいようとしていた。

“本当は好きなのに素直になれない”恋愛しかできない土方を苛立ちを感じながら、沖田は銀時をおもちゃにするのも忘れない。

感激したように目を潤ませて、

「……旦那……大好きですぜ!!……25番目ぐらいに」

がっしりと銀時に抱きつきながら、ポツリとオチを呟く。

「俺も大好きだよ。……24番目ぐらいに(笑)」

なので、銀時も抱き返しながらちゃんとノッってやるのだった。



食堂のテーブルで銀時の買ってきたお菓子と、そのへんにいた隊士に入れさせたお茶を飲む2人。

2人きりでこんなふうに直で話をすることもあまりないので、沖田は気になっていたことを聞いてみることにした。

「土方さんのどこが好きなんですかね」

「可愛いとこ」

返答に躊躇うかと思われたのに、きっぱりと言い切られて沖田も素で反応してしまった。

「……」

「んなすごい顔しねーでも、俺もこんな顔やあんな仕打ちをされると、あれ?どこが好きなんだっけ?って思うけど、ごくたま〜にこんな顔やあんなことされると、めっさ可愛くてメロメロになっちゃうんですぅ」

恥ずかしげもなく抜け抜けとそんなことを言う銀時に、沖田は呆れながらずっと忘れていた“宝物”のことを思い出した。

「じゃあ、旦那にもいいものあげまさァ」

そう言って警察手帳のポケットに入っていた一枚の紙を取り出す。

どうやら写真のようだが、それを受け取ってしばらく食い入るように見ていた銀時が、写真を見つめたまま激しく動揺してみせた。

「………お、おおおおお、沖田くんんんんん?なにこれ、なにこれぇぇええ?」

そこには、ミニのプリーツスカートの端を掴んでいる土方と、土方の生足が写っている。

そう、副長室で土方がうっかり誘惑に負けてミニスカを試着してしまったとき、押入れには覗き穴、その向こうにはカメラが設置されていたのだ。

沖田から見れば気持ち悪いだけのその写真を、銀時はあわあわしながら頬を赤らめて見ている。

最初に質問したときに、素っ気無いと思えるぐらいきっぱりと言い切っていたが、どうやらこっちのほうが銀時の素だったらしい。

「昔、土方さんをからかって遊んだときに撮ったヤツでさぁ」

「お、お前なぁ……あんまり多串くんをいじめると銀さんも黙ってられねーですよ」

「じゃあ、それ返してくだせぇ」

「いやいやいや、こんなエロイ写真は子供の目に毒だからね!銀さんが預かっておいてあげますよ」

「…………」

「…………」

“大人は見苦しい言い訳ばっかりだなぁ”という目つきをしている沖田に、銀時はしぶしぶ財布を弛めることにした。

「一週間……二週間、毎日団子屋でオヤツ奢る」

オヤツで釣ろうなんてずいぶん子供扱いされたものだが、銀時相手にはそれが限界だと沖田は理解しているので、

「……旦那……大好きですぜ!!……23番目ぐらいに」

さっきと同じノリでがっしりと銀時に抱きつくが、さりげなく順位が上がっていたので、笑いながら銀時もそれに合わせた。

「俺も大好きだよ。……21番目ぐらいに(笑)」

そのとき、食堂の廊下をドカドカと重い足音で近づいてきて、

「総悟っ!てめーなにを勝手に……」

扉を開けるなり怒鳴ってくる土方に、慌てて身体を離すが微妙な空気が流れていたのかもしれない。

「………なんだよ」

「な、なんでもないですぅ」

全くシラを切れていない銀時の言葉に、土方はそれ以上何も言わないで食堂を出て行ってしまった。

怒っているのか拗ねているのかはまだ判別できないが、どちらにしろそれは思いがあるからこその反応だ。

「じゃあ、俺はここで。旦那も寄り道せずに屯所を出てくだせぇ」

嬉しそうにしている銀時に、溜め息を付きながら沖田は一応そう言って食堂を出た。



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