原作設定(補完)
□その10
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#100 2015/07/19
「いいんですかい?」
「ああ。ばっさりやってくれ」
「はあ」
ハサミを片手に躊躇う親父に男はきっぱりと答えたが、親父のほうはまだ迷っている風だった。
侍と呼ぶには綺麗な顔立ちをしていたが、男は帯刀していたし侍ならやっぱりマゲだろうと言いたかったが、男の目には決意めいた激しさがあったため、親父は黙って長い黒髪にハサミを入れた。
「毎度〜」
親父の声を背中で聞いて、男は子供のとき以来、久し振りに短く整えられた頭を振る。
「あ〜〜、頭軽ぃ。さっぱりした」
髪に差し込んだ指がすぐにすり抜けてしまうのに違和感はあるが、すぐに慣れるだろう。
髪を伸ばしていたことに理由はなかったが、短くしたのには重く深い理由があった。
歩いて15分。高い塀に囲まれた建物の入り口に到着すると、開放されたままの扉を見つめる。
明日にはこの扉の脇に“真選組屯所”という看板が付けられる予定だ。
近藤を局長とする真選組がまもなく発足され、それを支え鍛え守る、その決意のために髪を短くした。
『ようやくここまで来た。これからもっと成り上がってやるぜ』
真選組副長・土方十四郎はにやりと笑って、引っ越ししてきてばかりで騒がしい屋敷内に入る。
玄関で掃除をしている山崎を見つけ声をかけた。
「戻った」
「おかえりなさい、ひじ……じゃない、副ちょ……………」
まだ副長と呼びなれない山崎が照れ笑いしながら振り返り、驚いたように土方を見つめ、
「な、なんだよ」
「ふ、ふ、副長ぉぉおおっ、なんですか、その頭ぁぁぁああ!!」
そう叫ばれて、どうやら髪が短くなっているのを驚いているようだが、その驚き方は大袈裟じゃないだろうか。
「あ?……変か?」
「へ、へんじゃないですけど、ないですけどぉぉおお」
『なんだ?』
地面に両手をついてがっくりとうな垂れる山崎は、意味が分からくて不気味なので無視して副長室へ向かった。
ところがその不気味さはそこだけで終わらず、副長室に戻るまでの廊下で会うやつ、会うやつがみんな山崎と同じ反応を示した。
「ちっ……なんなんだよ、いったい」
ブツブツと文句を言ってさっさと部屋に戻ってしまおうと思ったとき、
「あ〜〜〜あ、なんてことしてくれたんでィ、土方さん」
一番厄介なヤツの呆れた声が聞こえてきて、土方も不機嫌な顔で振り返る。
「てめえまで、なんだ」
「俺らに相談もなく髪切るたぁ、ひどいんじゃねぇですかイ」
コイツもか。
男が髪を切ったぐらいで嘆く理由があるとは思えないし、第一重い決意のため以外にもそうしたほうがいい訳があったのだ。
「隊服に似合わねぇだろうが」
そう、真選組の隊服は洋装になったため、いつもの髪型で試着してみたらどうにもおかしい。
しかし沖田はそんなのは承知の上だという顔をする。
「だからですよ。あんたに似合う隊服をみんなで考えて、金を出し合って発注したヤツが今日届いたってーのに」
「………俺のために?」
初めての沖田や仲間たちの可愛いドッキリに胸が熱くなる。
『俺を驚かそうとして内緒で用意してくれたのに、俺ってやつはそんなことにも気付かねーで』
気付かなくても無理はないのに、隊士たちの気持ちが嬉しかっただけによけいに落ち込む土方。
「まぁ、もしかして似合うかもしれねーんで、良かったら着てくだせぇ」
「! そ、そうだな、喜んで着る…」
沖田がそう言ってくれたので気を取り直そうとする土方に、
「ちなみに、これがイメージ画像でさぁ」
沖田は丸めていた紙を広げ、紙袋からその“届いた”という隊服を取り出して見せてくれた。
紙はフルカラーの大きいポスターで、髪の長い土方(最近のではなく10代のときのようだ)が、隊服のシャツ、ベスト、スカーフに上着を着て………生足が眩しいミニのプリーツスカートを穿いている。
「!!!!!!!!!」
もちろん、沖田が持っている実物の制服もスカートだし、ポスターには松平、近藤の“許可する”のサイン、この計画に参加した隊士たちの名前まで入っている。
自分の顔とアイコラされている変態ポスターに言葉が出ないでいる土方。
「さあ、土方さん、喜んで着てくれるんでしたよねぇ、みんなが喜びやすよ」
にや〜っと笑ってそう言った沖田に、最初からすべて土方への好意ではなく、沖田の悪意であることを知った。
「…そ、そ、そ、総悟ぉぉぉおおおっ!!!」
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