原作設定(補完)

□その9
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#88  2015/06/27


真選組屯所では、隊士たちが何故か浮き足立っていた。

ジャンプを読んだり、菓子を食ったり、昼寝をしたり。

普段そんなことをすれば「切腹しろ」と本気7冗談3の割合で言ってくる鬼の副長が……風邪で寝込んでいたのだ。

副長室の半径5mには“立入禁止”のロープが張られ、完全に隔離状態。

酷い怪我でもすぐに退院してくるほど頑丈な土方が、熱を出して倒れたとあって当初はなにか未知の病なのではないかとみんなで心配した。

だが、結局“風邪”というありふれた病名に落ち着き、一転、まさに鬼の居ぬ間のリラックスタイムを満喫するのだった。


そんな隊士たちの不穏な空気を察してはいたが、高熱と激しい倦怠感に土方は布団から出ることが出来ない。

こんなに酷い風邪は子供のとき以来だ。

まだ母親が生きていた頃、このまま死んでしまうんじゃないかと不安がる土方に、すぐに良くなる薬だと言って桃の缶詰を食べさせてくれた。

冷やした甘く柔らかい桃が身体の熱い土方にはとても美味しく感じられて、翌日元気になったときには本気で“魔法の薬だ”と思ったほどだ。

大きくなってから食べた桃缶は甘いだけで美味しいものではなかったが、こんな状態だからだろうか、

『……桃缶……食いてーな……』

そんなことを考えていると、廊下側から声がかけられる。

「副長〜、昼飯と薬ですよ〜」

そう言って副長室に入ってきた山崎は、しっかりマスク(二枚重ね)の完全防備。

まるで病原菌扱いのそのいでたちに、最初は文句も言ってみたが、

「何言ってんすか。副長が寝込むほどの風邪菌ですよ。俺たちがかかったら死にます」

そうきっぱりと言われて納得するしかなかった。

山崎の手にはお粥と水と薬がのったお盆が握られていて、いつものメニューなのに内心しょんぼり。

土方の上体を起しお盆を渡す山崎に、躊躇いながら言ってみた。

「…あ〜……あれ、食いてーな……」

「何ですか?」

「アレだよ」

「マヨネーズはダメですよ」

「違うっ!……アレだ……風邪のときに良く食う……」

「ビタミンC!レモンとか買ってきますか?」

「おしいっ! じゃなくて……も……」

「も?」

「……もっ……」

「もずく酢?」

「……もういい」

諦めた土方に、山崎が首を傾げながら薬をちゃんと飲むように言って部屋を出て行った。

『“ももかん”なんて恥ずかしくて言えるかぁぁああ!!』

硬派を気取っている土方には“もも”という言葉が、とても可愛らしく乙女チックなものに感じる(偏見)。

色、形、名前の響き。どれをとっても男向けではない(思い込み)。

『俺は侍だから、そんな軟弱なこと口にできねーよ』

と訳の分からないポリシーのために、結局“魔法の薬”を食べることはできなかった。



数日後。

なかなか熱が下がらない土方を心配してか、山崎あたりがリークしたのだろう、銀時がふらりと現れた。

「風邪引いたの?鬼なのに?」

からかうように笑った銀時に、土方は無反応。

そんなに具合が悪いんだろうかと、銀時は布団の脇に腰を下ろして額に触れる。かなり熱い。

ちゃんと休んでいるし薬も飲んでいるのに一向に良くならなかった。

それもそのはず。あれからずっと落ち込んだままの土方は、もはや“魔法の薬”じゃないと治らないような気さえしてしまっているのだ。

深い溜め息をつく土方に、

「元気出せよ。貧乏な銀さんがなけなしの金でお見舞い買ってきてやりましたよ〜」

そう言ってレジ袋から取り出したのは…。

「はい、マガジン」

一瞬『万事屋っ』とときめいた土方だったが、その色気のないお見舞いにまたがっくりと気を落とす。

「あとは、焼きそばとマヨ。好きだろ」

間違ってはいないし、いつもだったら喜んで受け取ったのだが今回ばかりは無理だった。

喜ばない土方に銀時ががっかりしているのが分かり、

『せっかく万事屋が来てくれて見舞いまで持ってきてくれたのに、俺は……俺は……』

銀時に対して酷いことをいているのだとさらに落ち込みかけたとき、銀時がレジ袋からもう1つ取り出す。

「んで、この桃缶は、お……」

布団から飛び起きた土方は、銀時の手に握られた“魔法の薬”にぱーーっと顔を輝かせ、驚いている銀時にそのまま抱きついた。

「万事屋ぁぁ……俺……今はじめて本当にお前が好きだと思った……」

「今かよっ、初めてかよっ!」

銀時の可哀相なツッコミは無視して抱きついている土方に、手に持った桃缶を見つめる銀時。

『…これは“俺用”に買ってきたんだけど………ま、いいか……』

ひょうたんから駒(思いがけないところから思いがけないものが出ること)。

「……食いますか?……」

コクコクとうなづく土方に、銀時が桃缶を開けて箸でつかんで持ち上げてやる。

土方はためらいもせずに口に入れ、今まで見たこことがぐらい可愛い顔で美味しそうに嬉しそうに食べた。

たなからぼた餅(思いがけない徳をするたとえ)。


そして、

“魔法の薬”のおかげで翌朝にはすっかり元気になってしまった土方に、リラックスタイムが終わってがっかりする隊士たちだった。





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……すみません、オチにも“ことわざ”を入れたかったのですが思いつきませんでした(笑)
この話はネタメモに残してなかったんで、一から書いたから微妙に時間がかかった。
けっこう前に思いついたのに、メモにする前に忘れたヤツでした。
もうちょっとイチャイチャさせたかった気もしますが……思い出したら書こう。




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