原作設定(補完)

□その9
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#90  2015/06/30


真選組屯所の洗面所で、めずらしくのんびり支度をしている土方を残し、他の隊士たちがそそくさと出て行く。

誰もいなくなってから、土方は大きく溜め息をついてシャツの襟元を捲ってみた。

そこにはくっきりはっきり明らかなキスマーク。

「……ちっ……」

忌々しげに舌打ちしてから、きちんと襟元を正してそれを隠した。

今日は近藤と一緒に登庁することになっているが、普通にしていれば見つかることはないだろう。

問題は今夜だ。明日は非番で、今日の夕方から銀時に会う予定になっている。

きっとこれを見つけたら大騒ぎするだろう。見つからずに済むわけもないし。

面倒だと思いつつ、ひとまず仕事優先で気合を入れなおした。



そして、夜。

久し振りに会う土方に銀時は最初からテンションが高く、いたせりつくせりのご機嫌っぷりだ。

最初こそ着物の襟元を気にしていた土方だったが、好きなつまみに酒がすすんでしまい、ソレのことは忘れていた。

いい具合に酔ったところで銀時の手が頬に触れ、そのまま口付けを受け止める。

久し振りの感触と暖かさに流されそうになるが、ソファに押し倒されそうになって思い出した。

「ちょ……待てっ……」

「ん?」

「…え…と……ここじゃ……あっち行こうぜ」

“明かりを消してくれ”なんて恥ずかしいことは言えないし、たぶん和室には布団が用意されているはずで、向こうなら暗いままでもおかしくない。

「行くよ、あとで……もうちょっと……」

すっかりその気の銀時には土方の恥じらいぶりっ子は逆効果だったようで、嬉しそうに擦り寄り、着物がずれ、凍りついた。

土方の胸元に残るキスマークに、

『土方の仕事上の立場も考えて痕を残すような真似はしてないし?たとえ無意識につけたんだとしても最後にイタシタのは3週間前だし?こんなくっきりはっきり残ってるわけねーじゃん?』

と一瞬で思考を巡らせた銀時は、どかんと切れて問い詰める。

「おまっ、誰に付けられたんですかぁぁああ!?」

「………」

答えず目を反らす土方。

好きになったのも必死に口説いたのも銀時のほうで、土方はそれに絆されただけだったのかもしれない。

それでも今日みたいに約束すれば来てくれたり、無防備に飲んだり食べたり、触れるのを許してくれたり、気持ちは通じてるのかと思っていた。

自分以外にも全てを許せる相手が居て、言い訳もしないってことは……。

「そいつのこと好きなのか?」

怒る権利もないし、そうする前に悲しくなってきてしまった銀時が寂しそうにそう問いかける。

その顔をじっと見つめながら土方は答えた。

「……好きだ……」

「…そっか………誰か聞いていいか」

ずっと聞きたかった言葉を、他の誰かを思っている土方から聞くことになるなんて。

せめて相手だけでも知っておきたい銀時の呟きに、土方は眉間にシワを寄せ、銀時の襟元を両手で締めて上げ叫んだ。

「てめーだぁぁぁあああ!!!」

キーンと耳鳴りがするほどの声で怒鳴られ、クラクラしながら銀時が言い返す。

「ああ? んなわけねーだろーがっ」

「覚えてねーんだろ?覚えてるわけねーよなぁぁ?」

「???」



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