原作設定(補完)

□その8
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#75

作成:2015/06/10
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真選組・屯所、朝の食堂の片隅で、異様な光景が広がっていた。
隊士たちが注目しているのは副長の土方だ。

土方と言えば、例の黄色いモノで染められた食事風景は確かに異様だったが、慣れてしまった彼らは今更そんなもので注目はしない。

なぜか土方の前には、大福、団子、饅頭、ケーキなどが並べられていて、しかもそれをガツガツと食べているのである。

『副長が甘い物を食べている!』

『しかもマヨなしで!!』

そう、それが“異様”だった。甘い物なんて付き合いで年に一、二度。しかもそれにすらマヨをかける土方が、甘い物だけを食べ続けているのだ。

「ど、どうしたんだ、トシ?」

近藤が心配そうに聞いてくるが、土方も首を捻る。

「わかんね。なんか起きたら無性に甘い物が食いたくなって……」

近藤の横からひょっこり顔を出した沖田が相変わらずの憎たらしい顔で言った。

「万事屋の旦那みたいでさぁ。うつったんじゃねぇですかい?」

「…そ、そんなことあるわけねぇだろ」

「冗談でさぁ。そんな会うわけでもねぇですしね」

「……」



副長室に戻ってからも、机に山ほど積んだ饅頭を口に入れながら土方は考え込む。

『万事屋の旦那みたいでさぁ』

沖田にそう言われて内心ドキッとした。

『そんなに会うわけでもねぇですしね』

そう言われてドキドキが止まらなくなった。

心当たりがあるからだ。

まさかの万事屋と、いつの間にかそういう関係になっていることを誰にも言えず数ヶ月。

どういう関係かはご想像にお任せするとして、食べようとした饅頭をじっと見つめて眉を寄せた。

『甘い物好きがうつる……わけねーだろっ。そんなもんうつるなら真選組はみんなマヨ好きになってるわ。………や、だけど、アイツだしな……アイツのアレはうつるのか?アイツだったらやりかねねーのか!?』

甘い物は止まらず、仕事は手につかず、モヤモヤとする土方だった。



数日後の非番に、土方は両手にがさがさと袋を持って万事屋にやってきた。

「……なんか旨そうな匂いがする……」

出迎えてすぐに甘い匂いに反応した銀時を無視してリビングのテーブルに次々並べたのは、ここに辿り着くまでにあちこち寄り道して買い込んで来た甘味だった。

「おまっ、俺のためにこんなに……」

銀時が嬉しそうに伸ばした手をぴしりと叩き、土方は黙ってそれを食べ始めた。

屯所の食堂でみんながしていたような表情を銀時も向けている。

「……多串くん?……それ甘味………ハッ!まさか土方スペシャルなのかっ!?」

1つ手にとって恐る恐る食べてみた銀時は、普通の甘味だったので逆に怪訝そうな顔になった。

「……どうしちゃったんですか?」

「お、お前のせいだろぉぉおお!!」

「なんでだぁぁああ!!」

叫んだ土方の目からは涙がぼろぼろとこぼれるが、手はテーブルの上の甘味を口に運び続けている。

「もうずっと甘いモンばっか食べたくて食べたくて……そ、総悟にはおまえがうつったんだとか言われるし……おまえ以外にこんなモノうつせそうな奴はいねーし……もう俺は、糖尿病で死ぬんだぁぁああああっ」

情緒不安定な土方に、甘味をつまみ食いしながら銀時は深い溜め息。

『そんなの俺らのことに感づいた沖田君になんかされたに決まってんじゃん。なんで気付かないの?バカなの?可愛すぎんだろ』

そう、実は“甘い物好き”が始まった前の晩、副長室にこっそり忍び込んだ沖田に“甘い物好きになる薬”的なモノを飲ませられていたのだ。

事実を教えてやってもよかったのだが、銀時はそれを逆手にとってやろうと考える。

「…だけどよ、ずっと一緒にいる新八と神楽にはうつってねーじゃん」

「……」

「あいつらとしてなくて多串くんとしてることっていったら、セッ…」

「言うなぁぁあああ!!やっぱりてめーじゃねぇかっ、てめーがうつしたんじゃねぇかっ、なんてもんまき散らしてやがんだてめぇぇええ!!」

泣き喚く土方に、銀時は内心吹き出しながら、土方の隣に座るとぎゅっと抱き締めてやる。

「分かった。責任はとる。んー、そうだなぁ。俺達もう結婚するしかないんじゃね?」

「……あ?」

とんでもないことを言い出した銀時に、土方はぴたりと泣き止んで眉間にシワを寄せた。

「結婚したらもうおめーとしかしねーし、まき散らすこともなくなるぞ」

「………」

“お前としかしない”という言葉にきゅんとしてしまった土方は、ここ数日ずっとテンパっていた所為もあって、

「……分かった」

あっさりと承諾してしまった。

『やっぱりバカだ。でも……可愛ぃぃいいいい!!!』

今回ばかりはドS王子に感謝しながら、銀時は擦り寄ってくる土方を抱き締め返してやるのだった。



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