原作設定(補完)

□その8
6ページ/16ページ

#74

作成:2015/06/09
1 / 2



いつのまにか定番になってしまった居酒屋での一時。

週に一度は飲みに出かけてほろ酔い程度で帰ってくる銀時の、酒の相手が土方だとは新八も神楽も思ってないだろう。

最初は偶然、次からは故意、今は約束して会うようになった。

お互いが、思ったより悪い奴じゃなかった、とか、飲んでみると楽しいやつだった、とか。

そんな程度で続いてる飲み仲間みたいなものだ。

『……って、土方は思ってるんだろうなぁ』

銀時は土方の空いたお猪口に酒を注ぎながら、内心愚痴っていた。

当の銀時はといえば、土方を“飲み仲間”と認識するまえに、なぜか一足飛びで“好きな相手”までランクアップさせてしまった。

“面白い、良い奴”で抑えておけばよかったのに“可愛い、好きだ”と思ってしまったのだから仕方ない。

土方が毎週会ってくれるのをいいことに、銀時は“ただ会えればいい”なんてフワフワした状態を維持している。

『相手は鬼の副長・土方十四郎だぞ。告白したって理解されっこねーしな』

そう納得しながらも深い溜め息を付いたとき、土方が難しい顔でじっと銀時を見つめていた。

さっきまでご機嫌で飲んでいたのにあまりにも真剣な顔をしているため、もしかして心を読まれたのかと思ったほどだ。

だが土方は、彼に似つかわしくない話を始めた。

「…最近……なんか、気になるやつが居るんだよ…」

「…あ?…」

「そいつ見てると……ぎゅーってしたい、とか、むぎゅーってしたい、とか、むにゃーってしたい、とか……」

「分かんねーよ。…つまり、ムラムラするってことか?」

「……ともいう……か?」

たぶん言った本人は明日になるとすっかり忘れてる系の、酔っ払った勢いでの話っぽい。

だけど銀時の胸には深く何かが突き刺さる。

たまの非番には自分と飲んでいるし、女の話も聞いたことがない。

『そんな相手がいたんだな』

せっかく気持ち良く飲んでいた酒が一気に抜けた気がした。

そんな銀時の気持ちを知らない土方は、首だけ傾げて聞いてくる。

「…なんだろーな、これ…」

「恋じゃねーの?女に不自由してなさそうなのに、そんなことで悩むんだな」

「不自由はしてねー」

「あっそ」

銀時がむっとしたのは、実際にそういう光景を何度も見てきたからだ。

市中見廻りだなんだとすらっとした隊服で町を歩いていると、やたら嬉しそうに色めきたった女が視線を送ったり声をかけたりしている。

仕事中だからかいつも土方は素っ気無く振舞っているが、嬉しいと思うこともあるんだろうか。

だが土方は、小さく笑って言った。

「だけど相手に全くその気がないのにそんな風に思ったのは初めてだから、どうしていいか分からねーんだ」

そう思うということは多少なりとコンタクトを取ってる相手なのだろう。

『…まぁ、世の中にはイケメンが苦手な女もいるしな………贅沢言いやがって……俺なんて好きだと言うこともできねーのに』

どんどん気分が沈んでいく銀時だが、土方が困ったような顔をしているからつい言ってしまった。

「んなもん、壁どんして顔寄せて“お前が好きだ”とか言ってやればイチコロだって」

「……ベタじゃねーか?」

「ベタだからこそきゅんとくるんだろーが」

「……そうか……やってみる」

痛みも苛立ちもぐっと抑えて銀時が笑いながら助言してやると、土方はなんだか気合の入った顔で頷いた。



.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ