原作設定(補完)

□その6
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#54

作成:2015/05/18
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新八と神楽が出かけた万事屋で、銀時は暇そうにダラダラしていた。

こんなところを土方に見られたら、嫌味の一つや二つ……十や二十、言われそうなぐらい。

いかんいかん、と頭を振ってソファに寝転ふ。思い出したら会いたくなってしまうからだ。

“ピンポーン”

玄関のチャイムが鳴ったが、暇を極めてしまった銀時は動かない。

“ピンポーン”

やっぱり動かない…でいると、鍵のかかっていない扉が静かに開いて、

「…坂田氏〜、いるでござるか」

「!」

ちょっと間の抜けたような声に、銀時はソファから飛び起きた。

「トッシー…か?」

「久しぶりでござる」

にっこりと嬉しそうに笑うトッシー。

服装も表情も違うのにあまりにも久し振りに見る土方で、むらむらしそうになるのを必死に我慢する。

「……どうした」

「実は〜、トモエちゃんの限定フィギュアを買いに行くのに付き合って欲しいでござる」

「……依頼か?」

「依頼でござる」

「報酬は?」

「スイーツ食べ放題でどうでござるか?」

「…ま、いいけどよ」

トッシーといると疲れることだらけで本来なら断固拒否るのだが、土方不足と甘味不足の銀時にとってはあまりにも好条件。

しぶしぶという顔をして依頼を受けた。



「は〜い、すみませんねぇ、どいて貰えますぅ?」

オタクの聖地に溢れる男たちを、銀時は木刀で軽く蹴散らしていく。

トッシー(土方)がもみくちゃにされるのを避けたいのと、一刻も早くここから立ち去りたい為だった。

先陣する銀時の背中にぴったりくっついているトッシーの体温も、銀時の精神と身体に悪影響だ。



ファミレスで疲労困憊うなだれる銀時と、お目当てのフィギュア片手にご機嫌なトッシー。

注文したハンバーグセットが運ばれてくるとトッシーはフィギュアをすばやく鞄にしまうが、恥ずかしいからじゃなくて匂いや汚れが付かないためだろう。

換わりにマヨネーズを取り出しモリモリと盛っている様子は、こいつは確かに土方なんだと思い知ることができた。

「…坂田氏も使うでござるか?」

「何にだよ」

じっと見つめる銀時にトッシーはマヨを差し出すが、銀時の前に並んでいるのはパフェなど甘味ばかりで、そんな余計な気遣いも土方らしい。

よけいに“土方”に会いたくなってしまった。

『どんぐらい会ってねーの……二週間前にちょっと顔合わせたぐれぇ?……触ったのは一ヶ月前なんですけど……』

忙しい上に仕事優先な恋人を大人しく待つ自分が、我ながら健気に思える。

『……んなこと、アイツは思ってねーんだろーけどな……』



ファミレスでお持ち帰りのケーキを買って貰い、銀時は屯所の近くまでトッシーを送ってきた。

「今日はありがとうでござる」

「……依頼だしな」

「それでも、真選組ではみんな腫れ物扱いだから嬉しかったでござるよ」

普段は“鬼の副長”と恐れ尊敬される土方の豹変振りに隊士たちが戸惑うのも無理はないが、ひきこもり属性のトッシーでもそれが少し寂しいと思えるようだ。

『……やめてくんない、その顔でそんな顔すんの。反則だっつーの』

ずっと押さえ込んできた理性が、もうすぐお別れという段階になって壁をブチ破ってしまった。

屯所を囲む塀にトッシーの背中を押し付けると、そのまま唇を重ねた。

「…っ…」

驚いたトッシーが固まり、我に返り、抵抗を始めても銀時は離れようとしない。

「…さか…」

隙間から発せられたその声で聞きなれない名前は、聞きたくなくてさらに塞ぐ。

「…ん……ふっ……」

トッシーが抵抗を諦めたので深く浅く味わってから離れ、肩口に額を乗せて身体を抱き締めた。

このまま攫ってしまいたくなったが、不安げなトッシーの声で思いとどまる。

「…坂田氏…」

「……悪い。じゃーな、とっとと元に戻ってやれよ」

そう言われてトッシーは小さく笑い屯所に帰って行った。



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