原作設定(補完)
□その1
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♯3
作成:2015/04/08 修正:2015/11/23
暖かい日差しの下、久しぶりの見廻りに出てきた土方は眩しさに目を細める。
溜まりに溜まった書類整理に追われずっと屯所に缶詰状態だったのだ。
そんな中、縁側で昼寝をしていた沖田を叱ったら、「屯所でだらだらしてんなら見廻りにでも行きやしょう」と言われて来たのに、当の本人は口を大きく開けて欠伸。
「おい、散歩じゃねーぞ。怪しい奴がいないかちゃんと見ろよ」
注意はしてみたものの、眠いのは仕方なかった。最近攘夷志士のテロ活動が続いて、沖田のほうも休みも睡眠時間も削って働いていたのだ。
それなのにわざわざ沖田の誘いにのったのは、もちろん攘夷志士を探すためと真選組がうろつくことで牽制する意味もあるが、ほんの少しでも会えないかなと思ったから。
『モフモフに会いてぇ…触りてぇ』
犬猿の仲だった銀時をこんなふうに思い出すことになったのを、一番驚いてるのは土方本人だった。
素直に会いに行けばいいのだが、みんなに内緒にしてるため仕事の合間に出かけることもできず、こうして偶然にすがる有り様だ。
「あ、怪しい奴はっけ〜ん」
呑気な声で沖田がそう言ったので、いかんいかんと頭を振ってそちらを向く。
建物の影に隠れて通りを覗いているすごく見覚えのある二つの背中は、神楽と新八だった。
「何やってるんでぃ、お前ら」
「シーッ!隠れるアル」
路地に引っ張り込まれてこそっと様子を伺った先には、銀色の髪をもふもふっと揺らして団子を食う銀時がいた。
「なんでぃ、旦那の素行調査でも依頼されたのか?」
「銀ちゃんのデート相手を見に来たネ」
「へー、旦那もちゃんとやるこたぁやってんだ」
探していたモフモフに嬉しくなり上昇した気分は、新八たちの会話を聞いてすぐに下降する。
『……は?…俺、デートの約束なんてしてねーぞ』
ということは他にデートをするような相手がいるわけで……。
ショックを受けてる土方を余所に、座り込んだ三人がこそこそと話を続ける。
「まだ決まったわけじゃないんですけど…」
「写真見てたネ。若い女だったアル」
ニマニマと気持ち悪い顔で銀時が何かを見てたので、「何アルか?」とサッと取り上げたらすごい勢いで取り返され、その時にチラッと見たらしい。
「そういえば僕も…」
襖の閉まった和室から、「か〜わ〜うぃ〜うぃ〜」と言いながら畳の上をゴロゴロ転がる音がした。
「…なぁ、と思って。それに、カレンダーに変なマークが書いてあって、その日は必ず出かけるんですよ」
「今日がその日ってわけかぃ」
三人はまた壁に隠れて銀時を盗み見る。団子を食いながら時折きょろきょろっと辺りを見回し溜め息をついたりしている。
『なんだそれ。写真?俺のじゃねーよな。カレンダーに書くような約束もしてねー。…しばらく会えないうちにもう別の相手みつけたのかよ…』
そう思ってから、そう思う資格が自分にはないことに気づく。お互い「好きだ」の一言もなく続いてる関係なのだから。
「来ねーなぁ」
「そろそろ1時間になりますから…来ないんですかね」
沖田が飽きてきたころ、ようやく銀時に動きがあった。
大きな溜め息を付いたあと立ち上がり、
「親父ぃ、金ここに置くぞ」
千円札を1枚椅子に置いたが、皿に残った串の山はとてもそれで足りそうにない。
「足りねーだろーがぁ!!」
気付いた団子屋の親父が怒鳴ったときには、銀時はぴゅーっと人混みに消えていった。
「あっ!追いかけるアル!」
慌てて神楽と新八も後を追おうとすると、手元を見た親父が銀時を探してキョロキョロし出した。
「おーい、万事屋ぁ…って聞こえねーか」
「親父さん?」
「おう、万事屋んとこの。大将の忘れ物だそ」
お札と一緒に置いてしまったらしい一枚の紙。神楽がそれを見て声を上げる。
「銀ちゃんのスケの写真!」
「え!?」
一斉に視線を向けた写真には、16、7歳ぐらいで髪をポニーテールに結んだ綺麗な顔立ちの子が写っていた。
「綺麗な人だね……でもどっかで見たような…」
新八が首を傾げたとき、くるりと背中を向けて逃げようとした沖田の襟首を掴み、引き戻した土方が低い声で呟く。
「総悟ぉぉ…てめーか、アレをアイツに渡したのは」
「やだなぁ、土方さん、なんでもかんでも俺のせいにするのは止めてくだせぇ」
「てめーしかいねーんだよっ!…つーか…てめー気付いてたのかっ」
どういうつもりで銀時に昔の写真を渡したのか、相手が沖田だけに結論を出すのは簡単だった。
二人の会話の様子から改めて写真を見直し、新八が驚いた声を上げる。
「え?これ土方さんですか?」
そう言われて見れば確かに写っているのは土方だ。
内緒にしていた銀時との関係を知られた土方は、真っ赤になって写真を取り上げ銀時の後を追って行った。
残された子供たちは“案外つまんないオチだったな”と思いながら呟く。
「デート相手はマヨラだったアルか」
「…じゃあカレンダーのマークって…」
「俺がリークした土方さんの見廻り予定でぃ」
土方に会えずガッカリしてとぼとぼ歩いてた銀時だから、土方はすぐに追い付くことができた。
隙だらけの後頭部を殴り付ける。
「痛いっ…って……土方っ」
振り返って相手を見てから、ぱっと嬉しそうな顔をする銀時。
そんな顔をされたらつい同じ顔をしたくなってしまうが、
「てめーっ、紛らわしい真似してんじゃねーっ!」
照れ隠しで怒鳴りながら、一時でも銀時を信じてなかった自分が悔しくて土方は両手をぎゅっと握り締める。
その手に握られているモノを見てぎょっとした銀時が、それを取り上げきゅっきゅっと伸ばしながら叫んだ。
「おぁぁあああ!おまっ、何すんだっ、俺の宝物……あ……」
思わず出てしまった言葉に銀時の顔は真っ赤に染まった。そんなの土方を好きだと言ってるようなものだ。
土方はもう一度銀時の頭にげんこつを軽く落とす。
「…どうせなら最近の持てや…」
そう言った土方の頬も赤いから、銀時は嬉しくなって笑った。
おわり
うん、定番てんこ盛りって感じの話だ…
2人の関係を隠し通してるってのも好きですが、
バレてる上でイチャイチャしてるのが良い。
ので、バレる話、が好きです。
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