学園設定(補完)
□同級生−その2
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「あ!しまったっ!」
「?」
「せっかく良い酒飲むのに紙コップしかない」
紙袋から取り出した紙コップにがっかりした顔をするが、よく考えてみると、
「…未成年!」
凄い酒を貰ったことで興奮する坂田だったので忘れていたが、二人とも酒を飲める年齢じゃない。
相変わらず固いことを言う土方に、坂田はコップに酒を少し注ぐ。
「“再会祝い”ってババアが言ってただろ。祝い酒なら縁起もんでしょ」
差し出された紙コップを受け取りながら、本当に良いのかなぁと怪しみながらも、坂田ににっこり微笑まれ、つられて乾杯をしてしまった。
父母もあまり酒を飲む人ではなかったので、土方は始めてほんのちょっぴり酒を口に含んだ。
日本酒は苦いものかと思っていたが、苦味などまったくない爽やかな味が広がる。よく知らなくても凄い酒だと思えた。
そんな酒を、
「ぷはーっ!ものごっさ美味い!」
ありがたみがない感じに紙コップで煽る坂田に、土方は今更ながらに気が付いた。
「……お前、車!!」
帰りも車でアパートまで送ってくれることになっていたのに、坂田の顔はもううっすら赤くなっている。
「だいじょうぶっ、ちょっと休めば抜けるからっ」
「俺がイヤだ。電車で帰るからいい」
こんな状態で運転させて坂田に何かあったら困る、と土方が顔をしかめたら、
「……じゃあ、家に泊まる?」
そんなことをさらっと言われ、昨夜のことを思い出し、一口しか飲んでいないのにかーっと顔が熱くなった。
その反応を楽しんだ後、坂田は昔一緒に遊んだときのことを話してくれた。
一つ一つ思い出しながら語ってくれたのに、それを聞いても土方には何も思い出せない。
『やっぱり思い出して欲しいのかな』
なのにそれに答えることができないのが申し訳なくて、
「……思い出せなくてごめん……」
呟くように言った土方に、坂田は露骨に嫌そうな顔をした。
「思い出しちゃ困るから」
「あ?」
「ほら、記憶が戻ると、記憶喪失だったときのこと忘れちゃうって言うじゃん。そしたら十四郎、6才だよ?」
言われるまで気付かなかったが、もしそうなったら人生をもう一回やり直すようなものだ。
育ててくれた父母のことも近藤たちのことも、そして今目の前にいる坂田のことも忘れてしまう。
「そ、それは……困るかも……」
「だっしょ〜? それに、俺のことを思い出してくれたとしても、こんな年上になっちゃって……また好きになってもらえるか自信がないですぅ」
せっかく両想いになって無事一線を越えることができたというのに、リセットされてしまうのは坂田にとっても辛かった。
“多串くん”のことは思い出として大切だけど、今は“土方くん”に側に居て欲しい。
約束を果たすために連れて来ただけで、本当に思い出して貰おうとは思っていなかったのだ。
「……だから、思い出すのは俺のことが嫌いになってからにしてください」
寂しそうにそう言った坂田に、土方はちょっとムッとする。“そんな日”を想像するのは失礼だし、心外だった。
「じゃあ、一生思い出せないな」
反抗してつーんと嫌味を言ってやったつもりだったのに、それは坂田にとって“ツンデレ”にしか思えない。
心臓を鷲づかみにされてしまい、
「十四郎!ごっさ可愛いぃぃぃぃ!!!」
そう叫んで土方を抱き締めようとするが、場所を失念していた。
「ちょっ、ばかっ、危ねぇぇぇ!!!」
狭い亀の遊具の上で抱きつこうとする坂田を避けようとして落ちそうになり、思わず土方も大声を上げてしまった。
案の定、
「コラァァァ!!騒いでるのは誰じゃあぁぁぁ!!!」
管理人が住むという家のほうから、二人の声に負けないぐらいの怒鳴り声が聞えてきた。
「やべっ」
坂田は土方の体勢を取り直し、荷物と酒を素早く片付けて遊具から飛び降りる。
「逃げるぞ、十四郎っ」
そして差し出される手。
先ほどは恥ずかしくて取ることができなかったその手を取った。
何も思い出せないのに、その手の温かさを“懐かしい”と感じたような気がする。
だけどそれを昔の自分に取り戻してやるわけにはいかないので、離さないようぎゅっと握り締めた。
満開の桜の枝の隙間から満月の月明かりが、13年ぶりに二人を照らしていた。
おわり
終わったぁぁぁぁぁぁ!!
もう叫ぶしかないです。本当に長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
ベタなネタをぎっしり詰め込んだバカップルなだけの二人でした。
こんなに長くなる予定じゃなかったんですけどねぇ……
まだ書ききっていない感がしますが、それはおいおい補完で……たぶん(笑)
長い話にはテーマソングを付けたがる私ですが、これは『サクラミツツキ』でした。
この話を書く準備をしてるときに聞いて「これだ!!」と思って、桜と月を無理矢理入れました(笑)
それ以外は初期設定どおりなんですが、意外とマッチしてるなぁ、と。銀時サイドの歌ですね。
ダラダラ長いだけで未熟な作品でしたが、書ききれて満足です。
ホントにありがとうございました。