原作設定(補完)
□その20
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#191
作成:2016/03/16
寒い。
そう思って目を開けようと思ったが開かなかった。何かを巻かれている。
取ろうと思ったのに手も動かせず、どうやら手首、足首を固定されているようだった。
目隠しをされ手足を縛られ、寒いのは床に転がされているせいだと気付いたら、急速に意識がはっきりしてきた。
数日前、真選組総勢による大捕物があったのだが、隙を突かれて幹部の数名を取り逃してしまった。
完全に俺の失策で、奴らの復讐の手が組に伸ばされる前に発見しなければと単身行動した結果がこれだ。
おそらく奴らに捕まったのだろう。
利用されて組に迷惑がかかる前に自決したいところだが、その前にやれることはやっておきたい。
冷たい床。埃の匂い。
人の気配がないので、なんとか身体を起こす。
目は塞がれているが、自由になっている聴覚、触覚のすべてで辺りの様子を探ってみた。
場所はコンクリート製の使われていない建物の一室、という感じがする。
窓があって外に吹いている風の音が聞えるのに、物音が一切しないのはここが江戸中心部から外れているからかもしれない。
ならば大声で叫んでも誰かに気付いてもらえないだろうし、俺を捕まえた奴らを苛立たせるだけだ。
着ているのは私服の着物で携帯の感触がない。組の誰かがここを付き止めるのは無理だろうと思ったら自然と溜め息が出た。
そのとき、足音が聞えてきた。
外に鉄製の階段があるのだろう。カンカンと音を立てて登ってきてドアを開けた。
起き上がっている俺に気付いて一瞬動きを止めたが、中に入ってドアを閉める。
何か悪態をついてくれたらこいつの風体が分かるのに、何も言わずワシャワシャとビニール袋の音をさせながら近付いてきた。
身構える俺の前に膝をついて座った気配がする。
ビニール袋から何かを取り出す音、小さく空気の抜ける音。
そして乱暴にアゴを取られて上を向かされる。その手の感触からコイツが男だと分かった。
「…なっ…」
抵抗しようとしたとき唇に冷たいものが触れた。
それは水だとすぐに分かったけれど、敵が出すものを飲み込むわけにはいかない。
口を結んで顔を反らしてやったが、また前を向かされる。
唇にペットボトルを押し付けてくるが俺が飲もうとしないので、溜め息をついてペットボトルを引いた。
いくらでも抵抗してやる。根競べといこうや、という俺の気合はあっさりひっくり返された。
コポコポと水の中に空気が立つ音が聞えたあと、再びアゴを掴まれ、唇は温かいものでがっちり覆われる。
口移しぃぃ!!?
なんてことしやがるんだと内心で叫びながら、それでも頑固として口を開かなかったら、もう片方の手で鼻を摘まれた。
つまり呼吸ができなくなるわけで……。
「……っっ!!……」
しらばくは必死に我慢してみたのだが、このままでは死ぬ。
口を開けると同時に水と、手を離された鼻から空気が一気に流れ込んできて、むせた。
「ゲホッ……ゴホッ……」
結果あまり水は飲まずに済んだのだが、再度口移しで飲ませようという気配がしたので、
「待てっ!分かったっ……自分で飲む……」
そう言うしかなかった。
始めから素直に飲んでおけば良かったんだ、そう思われてる気がした。
口に添えられたペットボトルから水を飲み込む。
何か変な味がするわけでもないし、もう飲んでしまったのだから仕方ないと開き直ったら喉が渇いてきた。
おそらく500mlのペットボトルだったのだろうが一気に全部飲んでしまうと、濡れた口元を何か布のようなもので拭ってくれた。
ちくしょう。
なんだか甘く扱われている気がしてイラついていたら、今度はビニールがペリペリと開く音、そして海苔の匂い。
おにぎり!?
飲み物の次は食事を与えてくれるつもりらしい。
バカにしてるのかと、口元に持ってこられたおにぎりを拒否することもできたのだが、さっきあんな無茶をした男だ。
さすがにおにぎりを口移しで食わせられるなんてマネはしたくない。
ギリッと噛み締めた奥歯を、しぶしぶ開くしかなかった。
自棄になって一気におにぎりを食べてやると、男はそれで満足したのか、立ち上がると俺の側から離れて行く。
正面の数メートル離れたところで床に座り、自分も同じくおにぎりを食べ出した。
何も言わないし、何もしない。
目隠しされたままなので見えはしないが、得体の知れない男の気配を探ろうと見つめた。
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