学園設定(補完)

□逆3Z−その1
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《お雑煮》


正月の朝、新年の挨拶を終えて朝食をとろうとする土方を、銀時はじっと見つめていた。

その手には銀時が作った雑煮の椀が握られている。

男2人の正月なので基本的には切った並べたの品ばかりだったが、昨夜の買い物で宣言したとおり雑煮は銀時が作った。

そんな銀時に、土方も味の感想を待ってるんだなと気付く。

醤油ベースに餅と牛蒡や鶏肉の入った普通っぽい感じで、土方はお汁を一口口に含んだ。

口の中にふわりと懐かしい感じが広がった。

自分では作らないが、引き取られた家や近藤宅にお呼ばれしたときにご馳走になったことはあるけれど、懐かしいと思ったことはない。

「どう?」

銀時が心配そうな顔で見つめているので正直に答えてやる。

「……旨いよ」

「まじでか。こういうのって家庭によっていろいろだから、口に合って良かった」

嬉しそうに笑って言った銀時に、土方も“懐かしい”の意味を知った。忘れかけていた“母親の作った雑煮の味”に近いのかもしれない。

思いもよらぬところで、思いもよらぬ相手の作った料理で母親を思い出すことになるとは、土方にも笑みが浮かぶ。




4日後。

新学期を前に土方が銀時の家に遊びに来て、冷蔵庫に入っている餅に気付く。

「餅まだ残ってんのか」

「うん。先生、食べる?」

「雑煮、がいい」

そう言われて、銀時の思っていた以上に土方が雑煮を気に入ってくれていたのを知って嬉しくなる。



8月、夏休みに連泊しに来てくれた土方と深夜のスーパーに買い物で、店内を回りながら銀時が、

「何食べたい?」

後ろから付いてくる土方にそう聞いてみたら、

「雑煮」

と即答が返ってきた。

「今、8月なんですけどぉぉ!?」

思いがけない答えに銀時が振り返ると、土方の手には1個づつパックされた餅がしっかりと握られていた。

銀時にツッコまれるのが分かっていて頑張って言った、みたいな顔をしている。

『そんなに!?』

普段見ている顔とは違う顔を見れて、嬉しそうに笑って雑煮を作ってやる銀時だった。







5年後。

再会した二人はそのままの流れで一緒に住むことになった。

銀時が引っ越してくる日、張り切っていた土方だったが届いた荷物は宅急便で段ボールが4個。

拍子抜けした土方が呟く。

「……荷物、これだけか?」

「うん。こっち戻ってくるときに要らないものは処分してきてたし、家電はここにあるの使うし」

持ってきたものはお気に入りの洋服と、ゲーム等の土方が持っていなさそうなものだけ。あとは追々買っていくつもりなのだろう。

土方が手伝う必要もない程度だったが、銀時はチラ見しながらモジモジしていた。

「? どうした?」

「あ、のさ……ここ、食器とかはせん……と、十四郎の分しかないじゃん? だから一緒に買いに行きたいなぁ……なんて」

見た目が高校教師っぽくなっていても、こういうところは昔と変わらない。

自分で言い出したことだけど改めて名前で呼ばれると照れくさくなってしまうもので、

「…分かった…」

土方も恥ずかしそうにそう答え、2人で出かけることにした。

外出先で更に恥ずかしい想いをすることになる。

銀時がやたら“ペア”を買いたがり、土方が渋ると、

「…ようやく一緒に居られるんだから、それっぽい物がいいのになぁ…」

なんて寂しそうに言われ、逃げ出した後ろめたさでいっぱいの土方に反論する余地を与えないのだ。

生活用品を一通り揃えた次に食器を見ていた銀時が、

「今日から俺がご飯作るからさ、何食いたい?」

そう聞いたとき、土方がパッと顔を向けた。

「雑煮っ」

言ってしまってからしまったと思ったのか、土方が恥ずかしそうに視線を落とすから、銀時が笑い出す。

「あはははははっ!せ、せんせっ、変わんねーなっ」

「う、うるさいっ」

真っ赤になっている土方を見ながら、5年前に戻ったような気持ちになって嬉しくなる銀時。

笑う銀時を見ながら、5年間ずっと欲しかったモノが2つようやく手に入れられて嬉しくなる土方。

こうやって少しずつ時間を取り戻していく2人だった。



 おわり



2016/01/04
冒頭と雑煮しか正月じゃないんですが、いつか書いてやろうと思っていた話でした。
長くなってしまった分、この2人が私にとっての逆3Zって感じがします。


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