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□偽善者はせせら笑う
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君はどこにでも居る平凡な人間だった。
(いいえ、君は特別な存在であった。)
君は愚かで愚鈍な人間であった。
(いいえ、君は聡明で博識であった。)
君は勇気なくいつも恐れから逃げ出していた。
(いいえ、君は立ち向かう事しか知らなかった)
僕等は逃げ出す君の背中しか見た事がなかった。
(いいえ、それは僕等を守る背中だった。)
僕等は君が大嫌いだった。
(いいえ、僕等は━・・・)
偽善者はせせら笑う
「沢田綱吉を、10代目ボンゴレファミリーボス候補より降格する」
戦いの傷を癒す者たちの元に届いたのは死炎印の煌くそんな文書だった。
「・・・綱吉っ・・・!これは一体どういうっ・・・!!」
バンッと沢田邸の窓を引くとそこには他の守護者達も集まっていて。
雲雀恭弥は己が最も早くここに辿りつけなかった事に苛立ちを更に増した。
「雲雀さん・・・怪我の具合は?」
「そんな事は聞いていない!今質問しているのは僕の方だ」
鬼気迫るといった雲雀の勢いに綱吉は苦笑を漏らして困った様に髪を掻いた。
「いやぁ、何故かと俺に聞かれましても」
俺も同じくあの手紙を貰ったもんで・・・と何とも歯切れの悪い言葉しか出ず。
それがまた雲雀恭弥をいらつかせる。
「10代目!これは何かの間違いです!何故ミルフィオーレから未来のボンゴレを救った貴方が降格されるんですか!」
床を叩く獄寺の怒声にもまた、綱吉は苦笑しか返せないでいる。
「命張って戦って、帰ってきたらコレ。俺も獄寺と同意見だな。おかしすぎやしねぇか?ツナ」
ボンゴレファミリーを守ったのはお前だろう?と山本にやんわりと言葉を促されれば、綱吉は喉の奥に引っかかったものを飲み込む様に息を飲んだ。
「まぁ、それは未来の話であって。現に9代目はそんな事知らないだろうし」
「それでも極限理不尽であろう!沢田はヴァリアーとかいう面々とも戦ったではないか!」
それを今更何故!と笹川の言葉に納得する者の方が圧倒的に多かった。
それは綱吉だけが知る真実━・・・
未来を知ったからこそ
綱吉だけが正しい未来のあり方を知っていた。
それが例え、偽善の範疇に過ぎなかったとしても
「俺は、望んでるんです。10代目から降りる事を」
今まで積み上げてきた見えない何かが
音を立てて崩れていく気がした。