中編

□白の号哭
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私の後に着いてくる靴音

立ち止まり振り返るけど、暗闇がぽっかりと口を
開いているだけで街灯の灯りも心許ない


誰がいるかなんて見えない為、恐怖心が
足元から体を舐めるように込み上げて来る




怖くなって早く帰ろうと足を早めるが恐怖が
足に絡み付いてくるようで上手く走れない


そんな私を獲物を狙う肉食獣が追い詰めて
楽しむかのように足音が早くなった






肩から下げていたバッグに手を突っ込み、急いで
携帯を漁るけど手に当たるのは違うものばかり

もどかしく思いながらも、指先に無機質な機械を
掠め、慌てて取り出した時だった



足がもつれ、しっかり掴んでいなかった携帯が
空を舞った。ガシャン、と地面に叩きつけられた
携帯へ手を伸ばそうとすれば心臓を冷たい包丁が
貫き、その姿を真っ赤に染め上げた




地面にパタパタと零れる真紅に不思議と痛みは
感じず、体がゆっくり倒れていく

鼓膜を震わせる声が私の名前を愛おしそうに
何度も何度も何度も。狂ったように呼び続ける




ああ。ストーカーか、なんて薄れてく意識で
ぼんやり考えながら目を閉じた






















―――眩む視界の端では、赤い古銭のピアスが
私の死を喜んでいるように夜風に揺れていた





(こうして私は死んだ)
(そして、物語の幕は開いた)
 

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