中編

□白の号哭
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10年くらい前。

私は夏休みをよく、母方の祖母の
住む田舎で過ごしていた。


祖母の家は、古い木造の家でエアコンなんて
無いのに通る風は何時も涼しかった



家のすぐ近くを流れる小川の音
蝉の騒がしい声、揺れる木々

風が風鈴を撫でると涼やかな音が響いた




「さぁさぁ、名前ちゃんが来るって
聞いてたから川で西瓜を冷やしておいたのよ」


氷水の張られたタライの中に、見事な西瓜が
入っており、濡れた露が夏の光に輝いた。


大きめに切り分けられた西瓜の赤い果肉は目にも
鮮やかで一口齧れば、冷えた西瓜の美味しさと
甘さに自然と私の口は笑みを浮かべていた



「おいし〜」

「そうかい、そうかい。たんとお食べ」



種を飲み込まないようにね、と注意する
お婆ちゃんに「もう10歳だもん」と拗ねれば
「大きくなったね」と皺々の手で頭を撫でられた




お婆ちゃんとお喋りしながら、西瓜を食べ夏休みの
宿題をしていると視界の端に光る物を見つけ
私は解いていた算数のドリルから顔をあげた


チリンと一つ、風鈴が音を立てただけであんなに
騒がしかった蝉もいつの間にか鳴き止んでいた




自分でも情けなくなる様な声で、お婆ちゃんと
呼んで見るけれど、私は1人になっていた


その時。庭の奥から木々の擦れる音がし、
気付けば、その音の正体を確かめたくて
サンダルに足を引っ掛け、音の方へ走り出していた









そして、庭を抜けた先…。
―――そこで私は彼と出会った。
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