探偵

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「えっ…安達さん、なんか思ってたのと違うわ」


「…ですよね」


「わり、やっぱこの話、なかったことにして!」


「…はい」



そう言い残して去っていく、よく知らない男の人。








事の発端はつい先ほど。





「あの…安達さん!」

「はい?」

学内でゼミの友人や後輩たちと昼食をとっていると、いきなり声をかけられた。

…この人誰だっけ?

てかそもそも知り合いだっけ?



「話したいことがあるんだけど…ちょっといいかな?」


いきなり声をかけてきたその男性は、少し明るめの茶髪にゆったりめの服を着ていて、若干チャラいというか、そんな感じ。

彼のその一言に、周りの友人たちがどよめきたつ。


「ちょ、瑠華!行ってきなよ!!」

「ねぇ、これって、絶対アレだよね」

「いやぁ、モテる女は大変だねぇ」


ヒソヒソと囁き合っている声が後ろで聞こえる。


…あんたらねぇ……。

「とりあえず行ってくるから。あ、あたしの唐揚げ、残しといてね」

「! ヤですよ。瑠華さんが行くなら俺、全部食べちゃいますから」

そう言って席を立ったのは、ゼミの一つ下の後輩である田中彼方くん。

上から読んでも「タナカカナタ」、下から読んでも「タナカカナタ」。

ね?面白い名前の子でしょ?


「そんなことしたら許さないからね!愛美!彼方くん、見張っといて!」

そう言って、話しかけてきた名前も知らない男子と席を離れた。

























「…彼方くん、ドンマイ……」

「瑠華ちゃんは、こと恋愛においてはかなり鈍感だからね」

「直球すぎるくらいじゃないと伝わんないかもよ?」

席に残されたのは、同ゼミの大学院2年の田代誠一、瑠華と同期の大学院1年生である、西浦愛美、伊藤理沙、そして彼方の4人である。

「なっ///俺は別に瑠華さんのこと好きなんかじゃないですよ!!///」

「誰も彼方くんが瑠華のこと好きだなんて、一言も言ってないけど??」

「!!」

「彼方…ハメられたな」




同じ男であるからか、女性陣に問い詰められる彼方を若干憐れむように見ている誠一だが、彼もまた、この状況を楽しんでいるようだった。

(味方いねぇ…!)






「にしても、彼方くんも厄介な相手に恋したもんだね」

「モテるぞ〜、瑠華は」

「瑠華ちゃん美人だからね。気持ちは分からなくもないけど、あそこまで鈍感だと…」

「だ〜か〜ら〜、なんで俺が瑠華さん好きみたいな前提で話進んでるんすか!!」

「あらら、そんな態度でいいの〜?今までは運よく、瑠華に彼氏がいたことはなかったけど、これからもそうだとは限らないのよ〜?」

「そうそう。ちょ〜っと趣味に難アリかもだけど、瑠華はいい子だし、その趣味を受け入れてくれる人が現れたら、ひょっとしてひょっとするかもね〜」

「今来たアイツがその運命の相手かもしれんしな」



このメンツでは、彼方が一番年下であるため、誰も彼方の主張は聞いていないし、顔が赤いため隠しきれてもいないのだが。

観念した彼方は、仕方なく話に乗る。



「そんなん、俺だって分かってますよ」

「ほう」

「ついに認めた」

「それでこそ男だぞ彼方!」

「あんたらのせいだろ!!」


自由な先輩たちに翻弄されまくる彼方。






「俺だって何もしてない訳じゃないんすよ。メシ誘ったりとか…」

「彼方くん、水差すようで悪いけど、瑠華はその程度じゃ絶対気付かないわよ」

「え?!」

「そうそう。ストレートに『好きだ!』ぐらい言わないと」

「そもそも3次元の男に興味があるのかも謎だよな…」

「あ、それは俺も少し思ってたんすよ…」



「「う〜ん…」」








友人たちが自分のことで頭を悩ませていることなど全く知らない瑠華は、この後起こるであろう展開を想定しながら男の後を無言で付いていくだけだった。


 
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