Respect(Qコメから)
□手探りの恋
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私の世界は生まれた時から何もない。
暗闇、と表現する人がいたけれど、暗闇というものを体験したことが無い私には、自分の世界がそうであるのか言うことができない。
杖がなければどこへも行けないし、そもそも外へ出してもらえなかったから狭い世界で生きてきた。
「あなたと会って世界が広がったわ」
「そうか」
優しい声とともに、大きくて少しかさついた手が私の頬を撫でる。
同じように触れればそこからじんわりと体が熱くなっていくのがわかった。
私はこの人に恋をしている。
「名無しさん、もっとこっちへ来い」
言われるまま近づけば、彼の腕の中へと。
私と同じように瞳を閉ざした人。それでもまるで見えているかのように、私を抱き寄せ迷うことなく唇へとキスをした。
「んっ……」
「…ッは……名無しさん……」
名前を呼ばれただけで胸が震えるの。
こんな状態で、この先を続けてしまったら、どうなってしまうんだろう。
だから、いまはまだ誤魔化すように彼の胸に顔を埋めた。
彼はおあずけを食らったのを残念そうに笑ったけれど、それでも頭を撫でてくれた。
結構紳士なところも大好き。
「大好き、ンドゥール」
「俺もだ」
少しずつ、手で探っていくような恋を、もうしばらく味わっていたいの。
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