長編小説

□兄妹
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妹の熱は俺の看病と妹本来の持つ免疫力で一日で完治出来た。病み上がりだからもう一日休むべきだと本人に抗議したが昨日の弱々しい妹は何処へやら、お節介だと有り体に断られ仕方なく学校まで送り届けた。校門を潜り俺の視界から妹が見えなくなるまで見送ると、車のハンドルを握りそのまま収録現場へと走り出す。

「言っちゃったら終わってたな」
「うん、俺もそう思う。」

ダブりを任せられていた中村君と俺はリハーサルまでの空き時間を携帯ゲームと何気ない会話で潰していた。その際話題は昨日の妹と俺の話になり、夕希の幼い頃俺が殺人未遂を犯してしまった事を本人に告白しそうになり思い止まった事を打ち明けた。中村君には当然全てを話している訳ではないので別の物に例えて話してはみたが、そうであってもその事を告白していれば俺と妹の関係性は崩れていただろうと助言される。

「中村君、俺どうしたらいいと思う?」
「兄妹の事を俺に聞いてどうすんだよ」
「うーん…」
「杉田さんはさ、その妹さんの事何処まで考えてるの」
「何処までって?」
「……分かんだろ。」

中村君の言いたい事は薄々分かっていた。これだけ妹の話をされてきていて、これにただの兄としての感情しか入っていないなんて戯言はきっと聞き入れてはくれない。俺自身、あの事件から今日までずっと夕希を妹であり妹以上に大切に扱って来た。一生拭える事のない罪滅ぼしは、俺が死んでもチャラにはならない。だからずっとこの十字架を背負って妹と接しなければいけないと思っていたのだ。
それなのに、いつからか罪滅ぼしは言葉を変えて愛情に変わっていた。それが家族としての愛情なのか、それとも異性としての愛情なのか、今ではもう分からなくなっていて、もし後者であるのならば、それを自覚してしまったら、俺はまた罪を重ねてしまう気がして怖くなる。
だから問うているのだ、中村は。俺の愛は、今何処にあって、どうしなければならないのか。

「…ははっ…夕希は、妹だよ。ただの妹、家族だろ?」
「…おう、だろうな。」

鋭い目付きに怖じ気立った俺から出た言葉は、中村君の眼光を逸らし再びゲーム機に向けられた。顔に出さぬようほっと息をつき台本を持ち直した時、控え室の扉が開かれスタッフさんが時間だと二人を呼び出した。行くかと立ち上がった中村君の背中に続いてスタジオに入った俺は、台本に目を通しながら頭の片隅に夕希を置いて、今日も仕事に望む。


END

  
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