長編小説

□兄妹
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「夕希ー、起きろ朝だぞー。ほら遅刻するぞ」


「ん〜……ぅ、ん。」


「今日から新学期じゃないのか?早々遅刻なんて笑われるぞー。」


「…………ぉはよ。」


「はい おはよう。
着替えたら下降りて来い。朝ご飯出来てるから。」



兄が開けた窓から、薄ピンク色の小さな花が入り込んでくる。
その一つが鼻をくすぐり、桜の季節なのだと思わせてきた。


私と兄は、両親が共働きな為2人きりになる事が昔から多かった。この暮らしは別に今も昔も嫌いじゃなかったし、どちらかと言えば楽しい方だと思う。
両親が忙しいのを思っての為か、兄は私を沢山可愛がってくれた。

言わばシスコンだ。

だからと言って、別にシスコンに偏見がある訳でもないのでほっといてはいるのだが…。



「ふぅぁ〜…、眠っ。
今日ご飯なに?」


「やっと降りて来たよ。
今日は洋食。スクランブルエッグとパンとその他諸々。付けて食べても良いし、挟んでも良し。
あぁでも確か夕希は挟むタイプだったな?大丈夫お昼のお弁当にはサンドイッチ入れといたから安心して食って良いぞ。
それと夕希はもう高校生だし、お弁当は前よりもよりをかけて作るからな。お弁当が可愛い女子はモテるって声優仲間に聞いた…!」



……と、まぁこんな事をペラペラ話続ける兄であり、声優として仕事もしている。私が好きなアニメには大抵兄キャストのキャラが登場したり…

黙っていれば良い人に見えるし、あんなド下ネタも言う様な人には見えないのだが…うん。凄く残念。



そしてもう一つ_____。



「夕希は今日も可愛いな。ほっぺキスしていい?」



何かと理由を付けてキスをしてくる。
こんな事してるから彼女も出来ないと言うのに…。まあ、それを断れずにいる私も私なのだが。



「もうお兄ちゃん!もうそろそろその癖みたいなのやめてよ…!」


「ん?癖じゃない日課だよ日課。お兄ちゃんにはこれが必要不可欠な訳。これしないと死んじゃうの。」


「事が大きすぎだよ!
あとそんな事ある訳ないでしょ?私ももう高校生だし、お弁当だって自分で作れる様にならないとダメだし、兄妹でき、キス…とか良くないし。物心つく前からお兄ちゃん私の事何処に行くにも送り迎えしてくれたし。」


「それは可愛い妹の為を思ってやってる事であってそれもこれも日課だよ。俺別に不満じゃないし」



ご飯を突きながら話をする兄は、相変わらず黒のジャージを纏って休日感バリバリである。
お兄ちゃん今日仕事でしょ…



「私が不満なんだよ。この歳で料理一つ出来ない女なんて最悪だよ!キスも…恥ずかしいし。」


「ん?なに、今更恥ずかしがってる訳?流石思春期は違うねえ。でも、お兄ちゃんやめるつもりはありません。そんな所も引っ括めて妹である夕希が大好きだからね、うん。」


「…お兄ちゃんもさあ、もう三十路でしょ?彼女の1人や2人作らないと。ずっと独身でいるつもりなの?」


「うっ…」



仕事も上手くいって人気で、忙しいのはわかるが、妹からしたら早く結婚して欲しい所はある。家を出て行ってしまうのは少々寂しいが、兄が幸せになってくれるのなら構わない。それに、ここまで育ててくれた兄に恩返しもしたい。ずっと、私の所為で好きな事が出来なかった筈だから…



「いやまあ俺もわかってるけどさ。今はまだフリーが良いと言うか…。それに、母さん達の仕事が落ち着くまでは、俺が夕希を守らなきゃいけないし。」


「そうかもしれないけど、私もう高校生だよ?自己管理がとっくに出来る歳なんだよ?」


「そうだけど俺から見ればお前はまだまだ子供なの。彼氏なんか作ってみろ?後悔するぞー?お兄ちゃんの方が有能だから。」



少しドヤ顔を決めると、時計を見て、そろそろ送ってくよ と食器を片付け始めた。
心配されるのは仕方が無い事かもしれないが、兄がここまでだとする事も限られてくる。
友人には兄が声優である事を秘密にしているし、顔も割られている為下手に合わせられない。家に友人を連れてくる事は愚か、彼氏も出来ない。
兄に散々言っておきながら、自分も人の事は言えない事に申し訳なくなる。



「靴ズレしない?大丈夫?あ、靴は利き足から履いた方が良いぞ?」


「わかったから!ほら行こ!」


  
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