綺麗だった

□1
1ページ/1ページ

転校してから早くも1ヶ月が過ぎていた。

別に大してこれと言った出来事もなく、いい感じにクラスに馴染み、いい感じに学校生活を過ごしていた。
ただ周りはやはり俺の髪色が気になるのだろう、教室を出れば少し悪意の篭った視線を感じ取ることが出来る。

色を何度も何度も繰り返し抜いたせいでパサパサになった髪の毛はどうしようもないほど傷んでいて、簡単にちぎれるほど脆い。
それに対して気にすることはなくぐじゃぐじゃと乱暴に髪を触りながら廊下を歩く。

でもそれだけ、俺が異様なのはそれだけであってあとはただのどこにでも居そうな男子高校生だ。
多分。

転校に関しては親の都合でまさかの高校生にして一人暮らしというなんとも過酷なサバイバルを言い渡されたが今のところ無事に生きていけているので良しとしよう。
空港で見送る時に「がんばって生きろよ!」と言い放った時の両親の長年の重荷を解き放ったかのような清々しい顔を俺はずっと忘れないだろう。

しかしこの転校してきた高校、まさかの俺には無縁であるスポーツに力を注いでいる所なのだ。
転校前の話し合いの時に担任となる先生に部活の事を聞かれたが、部活には入らないことを伝えると唖然とされて非常に申し訳なく感じた。
親戚の家が近く、いい感じの安くて住みやすい部屋が借りることが出来、そして一番近くにあった高校がこの海常高校だったのだ。

今日の授業も全て終わり、運動部に所属しているであろう生徒達がバタバタと忙しく教室を後にしていく姿をぼんやりと眺めながら今日の晩飯の献立を考えていた。


『…炒飯と、味噌汁と、卵スープ…』


あ、駄目だ。
眠くて汁物が二つになってる。

窓から入ってくる風は少し肌寒いように感じる。
しかし俺を夢の世界へと連れていくには充分だった、ゆっくりと瞼が落ちていくのが分かる。


『あー…買い物、行かないと…』


冷蔵庫には牛乳しか入っていない事を思い出したところで思考は停止した。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ