□四
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 この心を、この子には、どうしても与えてはいけないはずなのだが、運命とは非情なものである。どんな生き物にも、別離はつきものなのではないか。そうじゃなかったらよかったのに。

旭 四話


 「頼んだ」

 そう一言だけ言って、爺に妹を託した。爺はいつもの『優しいおじいちゃん』みたいな顔じゃなくて、まあ、異名の通りと言うべきか。仏頂面で俺の方を見る。

 「良いんだな?鶴彦」

 「前も言ったが、これはあくまで妹の為さ。アンタだけが頼りなんだよ、爺さん」

 爺は依然として仏頂面だ。この爺さんは無類の子供好きだったはずだ。妹に対して拒絶する理由も見当たらない。大方、妹の様子からの躊躇なのだろう。でかい大人二人に挟まれた、小さい妹は、小刻みに震えて、俯いている。

妹―似鳥は、臆病の中の臆病者だ。いつも初めて見る存在には、必ず腰を抜かしたような態度を取り、俺に飛びついてきていた。それも今日でおしまいなのだ。この爺さんが、育てるべき対象に対して、決して甘くはないことを、俺は知っている。この身が持つ技術は全部この人がくれたものだ。心の強さ、剣技、工作の術、立ち回り方…両手じゃ足りない程。今の俺はこの人のおかげで居るといっても過言ではない。この人の強さは異常なのだ。だからこそ、似鳥を託したかった。俺じゃ、駄目だ。あの日―『誕生日』から、妹がとにかく大事で大事で、仕方ない。いつも代わりに何かしていたのがこのざまだ。全ては俺の責任だから、俺がやるべきなのだけれど、何度心を鬼にしようとしても、目に入れても痛くないこの子に冷たくするなど、幾千、幾萬の戦人に、刀一振りで挑むようなものだった。そして是は俺の甘えでもあり、俺に対する最大の試練でもある。この子を甘やかさずにはいられない自分に、
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