□弐
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 「誰か、誰かアイツを止めろ」
 
 「助けてくれ!どうか、命だけは。」

…ってナ、大方、そういってたんだろうよ。わけも分からず泣き叫ぶ敵兵が、片っ端からなぎ倒される。葦のように刈られているみたいだ。大量の米国大隊が、たった一人相手に、まるで手も足も出ない。大波をかき分けるかのごとく突き進んでくる一人の男を、打ち倒す事すら出来ずにいた。
 いやア、流石は大佐って、そういうワケでもないのサ。あれはもう仏の領域だよ。なんせ、近くを通られただけで、どいつもこいつも爺さんやら枯れ木やらになって、そこをあの、硬くてたまらん鉄錫杖でぶっ叩かれるんだから。一撃で皆沈んでいく。アア、あんまりこんな表現したくないんだがネ。海の奴らみたいで。
 そうだ、あの人あれで、80だってんだ。そうそう、阿僧祇総統の前の…吉中大将の時から居たってんだよ。最古参だろ?だから誰もなかなか逆らえん。少将様も、あのおっかない科学部の中佐も、だァれも、敵わん。下手したらあの総統殿も、だ。なのに、あの見た目ときたら…。男の俺でも惚れるんじゃ無いかってくらいの美しさ。何でも、あの…死ぬかどうかも知れない、アレを…。

 「うむ、して、ドレをしたんだ。言ってみろ。」

 いつの間にやら。隣に座り込んでいた渦中の人物に、兵らは仰天。椅子から転げ落ちる者、数名。其れを見て、紫明喜代二は、はっはっは、と笑んで。

 「若いのが、俺より若いのが、驚いて腰を抜かすか。是はまた、面白いものだ。ははははは。なアに、怒りはせん。怨みもせん。よいぞ、よいぞ。好き勝手に噂して、好き勝手に造形せい。造形されるのもまた、美よ。諸君らの造った俺はどんなか、見てみたいものだなア。」

 し、失敬しましタ。と直る兵らにまたしても笑って、気が済んだのか、紫明は去った。腰を上げる際、つい「どっこいしょ」と言ってしまったのを恥ずかしそうにして、それでも笑って。

 「…やっぱ、あの方は、仏か何かなのかもしれんなア」

 去っていくその背中を見つめて、一人の兵が零した。違いない、と頷くもの、多数。拝むもの、数名。どうやら紫明喜代二はこの陸軍で、仏か神かとして造られているようである。






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